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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 地方創生に貢献する地域脱炭素の推進

1. はじめに

2020年10月、我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。
また、2021年4月には、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに、50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しました。
 
これらの目標の達成のため、特に地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる分野を中心に、国民・生活者目線での脱炭素社会の実現に向けたロードマップの策定および、それを実現するための国と地方による具体的な方策について議論する場として、内閣官房長官を議長とする「国・地方脱炭素実現会議」が設置されました。
 
2021年6月に開催された第3回国・地方脱炭素実現会議において、地域が主役となる、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現を目指し、工程と具体策を示す「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を策定しました。
 
本ロードマップに基づき、地域脱炭素が、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を起こすべく、2025年までを集中期間として、あらゆる分野において関係省庁が連携し、脱炭素を前提とした施策を総動員していくこととしました。
 
さらに、昨年7月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)でも、「地域金融機関や地域の企業等との連携の下、地域特性に応じて、各地方公共団体の創意工夫をいかした産業・社会の構造転換や脱炭素製品の面的な需要創出を進め、地域・くらしの脱炭素化を実現する」とされています。
 
 

2.地方公共団体における脱炭素の取組の進展

政府の2050年カーボンニュートラル宣言以後、地方公共団体主導で進める地域の脱炭素化の取組が加速しています。
2050年二酸化炭素排出実質ゼロを表明した地方公共団体、いわゆる「ゼロカーボンシティ」の数は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルが宣言された際の166自治体から、2023年12月末時点で1,000自治体を超えるまでに至りました(図-1)。
 

図-1 ゼロカーボンシティ 宣言自治体数
  
また、北海道や福島県をはじめとして、複数の都道府県で官民連携による脱炭素の協議会等が設置され、地域全体の推進体制の強化、取組事例の共有等が進められています。
加えて、都道府県・市区町村において、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づいた、区域内の温室効果ガス排出削減等を行うための地方公共団体実行計画(「地方公共団体実行計画(区域施策編)」)を策定済みの団体は、2023年10月時点では727団体であり、さらに今後改定予定の団体も含め加速度的に増加しており、同計画に基づき具体的な取組が進むことが期待されます。
 
また、地域脱炭素は「地球温暖化対策計画」(令和3年10月22日閣議決定)において、地方の成長戦略として、地域の強みを生かした地域の課題解決や魅力と質の向上に貢献する機会であるとしており、地域資源を最大限活用することにより、地域活性化や防災、快適な暮らしの実現などの地域課題の解決に貢献する、脱炭素の取組を進めることが重要です。
実際に、すでに地域脱炭素に取り組む地方公共団体においても、脱炭素と地域課題解決とのシナジーを図る取組が進められています。
 
例えば、福島県桑折町では、災害対策として太陽光発電設備および蓄電池を整備していた中、令和4年の深夜に発生した福島県沖地震では震度6弱を観測しました。
その際、商用電力が停電している中でも、蓄電池により電力供給を行い、災害対策本部となる町役場庁舎に電気を供給するとともに、深夜に町役場へ避難してきた住民のために必要な照明の確保、携帯電話などの充電スポットの提供を行い、円滑な受け入れができました。
 
また他にも、山形県では、国の省エネ基準を大きく上回る断熱性能に加えて高い気密性能を持つ、県独自の高断熱高気密住宅の認証制度「やまがた省エネ健康住宅」に再エネ設備を併せて設置しています。
工務店が施工方法を学ぶための「事業者向け省エネ住宅普及研修会」を開催するとともに、県民向けに「やまがた省エネ健康住宅」の健康面、経済面等のメリットを訴求することによって、需給両面から高断熱省エネ住宅を推進し、年中室温が変化しにくい快適な暮らしを実現するための取組が行われています(写真-1)。
 

写真-1 やまがた省エネ健康住宅  提供:飯豊町
 
こうした地域脱炭素の取組を広げるため、政府からは①人材派遣・研修、②情報・ノウハウ、③資金の観点より積極的、継続的かつ包括的に支援することとしています。
 
 

3.脱炭素先行地域をはじめとした地域脱炭素の全国展開

前述した地域脱炭素ロードマップに基づく主要な環境省施策の一つが「脱炭素先行地域」の実現です。
脱炭素先行地域とは、民生電力部門を中心に2050年を待つことなく2030年度までに、脱炭素と地域課題解決を同時に実現する地域のことです。
全国の先行例・模範となって「脱炭素ドミノ」の起点になり、地域脱炭素の取組を広げていくことが強く期待されるモデル地域です。
 
2025年度までに少なくとも100カ所を選定する予定ですが、これまでに計4回、2024年3月18日時点で全国で73地域が選定されています(図-2)。
重要なポイントは、その取組が同時に地域課題を解決し、地方創生に資するかどうかです。
地球規模の取組といえる温暖化対策を地域政策へとつなげ、全国へ“脱炭素ドミノ”を起こす(横展開していく)ためには、脱炭素の取組が地域にメリットをもたらすことが重要といえます。
 

 
図-2 脱炭素先行地域 選定状況
 
例えば、富山県高岡市における脱炭素先行地域の取組では、中心市街地に太陽光発電等の再エネ導入を進めるとともに、基幹産業であるアルミ産業の企業を巻き込み、エリア内外で発生する使用済太陽光発電設備を再生アルミ資材にマテリアルリサイクルを推進します。
脱炭素の取組と地場産業の発展を同時に目指すもので、地域経済循環・サーキュラーエコノミーの構築を目指すモデルです。
その他これまで選定された計画については、これらの地域課題や地域脱炭素の基盤により類型化し、公表しています。
 
また、評価委員会や事務所を中心にフォローアップを行っており、その中で系統接続や、人材不足等、事業推進体制の確保等の大小さまざまな課題も見えてきていますが、これらの課題についても、その解決方策を含め公表を行っています。
脱炭素先行地域への応募を検討する地方公共団体の皆さまには、これらの情報も参考にしていただきたいと考えています。
 
地域脱炭素ロードマップに基づく、もう一つの施策が脱炭素の基盤となる重点対策の全国展開です。
全国津々浦々で重点的に導入促進を図る屋根置き太陽光発電、ZEB、ZEH、EVなどの取組を自治体が複数年度にわたり複合的に実施する場合に支援していきます。
 
例えば、福岡県久留米市では、既存建築物の改修によるZEBのトップランナー(令和2年度:環境部庁舎、令和3年度:中央図書館・合川庁舎)として、計画的に市有施設のZEB化(保育所・子育て施設、イベントホール、図書館・集会所の複合施設、市民センター)を実現し、条件の異なるさまざまなZEBの集積による改修ZEBのモデル地区を目指して取組が進められています。
 
環境省では、2030年度目標および2050年カーボンニュートラルに向けて、民間と共同して意欲的に脱炭素に取り組むこれらの地方公共団体等に対する財政支援のスキームとして、2022年度当初予算に創設した交付金によって、おおむね5年にわたって継続的かつ包括的に支援しています。
 
加えて、地方公共団体の職員等に対する、再生可能エネルギー導入といった脱炭素の取組による地域へのメリットや手法等について理解を深めるための研修を充実させています。
さらに、令和5年度から脱炭素まちづくりアドバイザー制度を創設し、脱炭素の専門家を派遣するなど地方公共団体の人的支援を強化しています。
 
 

4.おわりに

2050年カーボンニュートラルに向けて、全国全ての地域で地方創生に貢献する脱炭素の取組が実行されることが重要です。
このためには、全国で脱炭素事業が加速するような財政支援、人的支援、情報・技術支援の仕組みを構築するとともに、国、都道府県、市区町村の一層の連携と役割分担が必要です。
また、地方公共団体と地域の企業や脱炭素技術を有する企業、地域金融機関等との連携を加速する必要があります。
 
政府としても、2030年には新築の住宅・建築物でZEH、ZEB水準の省エネ性能を確保すること、2035年までに新車販売は電動車100%を目指すなどとしています。
今後、脱炭素に向けた選択肢が標準化されていくことが想定されます。
地域の脱炭素化の取組も、こうした全国の産業や運輸の脱炭素化の取組と整合的に進めることが必要です。
 
環境省としても関係省庁、都道府県、市区町村と一層連携・役割分担しながら、地方創生に貢献する地域の脱炭素化を強力に後押ししていきたいと考えています。
 
 

環境省 大臣官房 地域政策課 政策企画官
 三田 裕信

 
 
【出典】


積算資料2024年6月号


最終更新日:2024-10-07

 

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