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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > NEXCO西日本の都市部高速道路 リニューアル工事の取組み  E26/E42阪和自動車道、E3九州自動車道 床版取替工事

1. はじめに

西日本高速道路株式会社(以下、NEXCO西日本)が管理する高速道路は、2022年3月末時点で総延長3,350kmが供用しています。
 
このうち、橋梁について床版取替など大規模な更新が必要な箇所を、詳細点検および詳細調査による健全度評価結果を踏まえつつ、沿岸部などの飛来塩分や積雪寒冷地における凍結防止剤、海砂使用による内在塩分の影響により健全度の低下が著しい路線について優先的に着手しています。
 
最近では、重交通区間を多く有する関西都市圏において、中国自動車道(吹田JCT~中国池田IC)にて試験工事として2020年6月より約16日間の終日通行止めを行い、交通影響等の分析を踏まえた知見を基に、2021年5月より約1.5カ月の終日通行止めによる本格的な取替工事を断続的に計6回実施し、延べ293日間の終日通行止めを経て、同区間の終日通行止め規制を伴う工事を2023年3月26日に終了しました。
隣接する中国池田IC~神戸JCT間では、引き続きリニューアル工事を実施しています。
 
現在、重交通区間にて対面通行規制を用いないリニューアル工事を展開しており、本稿では阪和自動車道および九州自動車道のリニューアルプロジェクトについて紹介します。
 
 

2. 阪和自動車道 リニューアルプロジェクト

(1)路線特性

阪和自動車道は、近傍にう回路となる代替高速道路路線がなく、和歌山北IC~和歌山南SIC間(以下、松島工区)は交通量が約3万3千台/日、阪南IC~和歌山北IC間(以下、雄の山工区)が約3万6千台/日であり、繁忙期には、最大約6万台/日を超える交通量があります。
松島工区は、上下線に高低差がなく上下線中央分離帯が閉塞構造である一方、雄の山工区は約6kmのグレートセパレート区間が存在し、かつ曲線半径350mの箇所があるなど、線形が厳しい区間となっています(図-1)。
 

【図-1 阪和自動車道路線図】
 

(2)劣化による変状状況

当該区間の橋梁コンクリート構造物は、海砂による塩害が発生していることに加え、交通荷重による疲労ひび割れ部へ水が供給されるなど外的因子の侵入が材料劣化の進行を早めていることが確認されています(写真-1)。

       【写真-1 阪和自動車道の変状状況】
 

(3)交通運用計画

前述のとおり、本路線は交通量が多いことから、施工期間中の高速道路やう回となる一般道路の渋滞など社会的影響を最小限とする必要があります。
 
そこで、松島工区については、施工期間中も現状と同じく4車線を確保するため、車線幅員を3.5mから3.0mとして施工帯を確保し、上下線総幅員を3分割して施工する計画としました(図-2)。
 

【図-2 交通運用イメージ】
 
雄の山工区については、上下線がグレートセパレートしており、山間部を通過していることから現況車線数を確保することが困難であり、また、交通影響の最小化を図るために施工方法を工夫し、夜間通行止め規制にて床版の取替を計画、現在、試験的に境谷橋(下り線)で導入・施工を行っています。
 
施工時期は、大型連休や夏季繁忙期、雪氷期を避けた時期のうち、10~15夜間程度の規制を年間2回、複数年実施する計画としており、初回の夜間通行止めは2023年11月27日~12月9日の土日を除く10夜間で実施しました。
夜間通行止め時間については、20時~翌朝6時までとし、工事期間中は下り線(和歌山方面)を6時~20時まで1車線規制を実施し、機械や資機材の搬入搬出の時間短縮を図りました(写真-2)。
 

【写真-2 夜間通行止め規制による作業状況】

 

(4)現場条件を考慮した施工方法
①松島工区

本橋の新設主版にはプレテンションT桁構造を採用しましたが、下部工は多柱式橋脚であるため、架設するには単柱間に下部工横梁を構築する必要がありました。
 
そこで、現場作業(現場打設や支承工等)削減のため、下部工横梁にプレキャスト製品を用いたSCBR工法を採用しました(図-3)。
 

【図-3 SCBR連結構造】
 

主版架け替えは、上下線総幅員を3分割して施工するため、3段階の施工計画を策定しました(図-4)。
 

 
【図-4 施工ステップ図】
 
STEP1は、中央分離帯側の取替を行います。
T桁架設後に下り線側と上り線側それぞれで床版横締めのためPC鋼材の緊張をする必要がありますが、上下線を供用しながらの施工となるため、中央部にしか緊張ジャッキを配置するスペースがありません。
標準の緊張ジャッキでは、緊張空間が1000mm必要ですが、本橋で確保できる空間は700mm以下でした(図-5)。
 

 
【図-5 STEP1の緊張作業空間】
 
そこで、狭小空間でも緊張可能なジャッキを開発し施工しました。
標準の緊張ジャッキは、PC鋼材余長の後方からジャッキを抜き差しするのに対して、狭小スペースジャッキは、上方からのジャッキセットを可能とする構造としました(写真-3)。
 

【写真-3 狭小スペースジャッキ】
 
STEP2以降の施工時は、STEP1で施工した暫定形の上部構造上に一般車両を通行させる必要があり、また完成形では上下線分離構造にするため、撤去が可能である上下線一体構造を計画しました(写真-4)。
 

【写真-4 上下線一体構造架設】
 

②雄の山工区

夜間通行止め規制における課題としては、既設床版撤去から新設プレキャストPC床版(以下、新設床版)の設置、舗装までを実作業時間約7時間という限られた時間内に完結させることが困難であることでした。
そこで夜間作業量の削減を目的に、既設床版から仮設鋼床版へ取替を行い、フランジ処理等の一部作業を夜間通行止め規制期間外に実施したのち、新設床版を設置する2段階施工を採用しました(図-6)。
 

 
【図-6 2段階施工イメージ】
 
本工事で使用する仮設鋼床版は、デッキ下面から鋼桁上フランジまでの高さを約300mm有した構造となっており、狭隘部用に改良した専用工具を使用することで上フランジ処理を可能としました。
また、既設床版との取り合い部には長孔を用いた調整プレート付きブラケット形鋼床版を設置することで施工誤差を吸収できる構造としています(図-7)。
 

 
【図-7 仮設鋼床版の外観モデル(2枚1列)】
 
主桁との固定方法については、高力ボルトによる摩擦接合を採用し、仮設鋼床版1枚につき4箇所(2枚1列で8箇所)の固定部を有する構造とすることで、作業の簡略化を図っています。
なお、採用にあたっては1年相当の活荷重を想定した輪荷重走行試験ならびに主桁固定部のすべり耐力試験を実施し、各固定部のボルト緩みや設計荷重に対して十分な耐力を有することを確認しました。
 
仮設鋼床版への架け替え工程は、通常のプレキャストPC床版取替工事とおおむね同様ですが、施工時間短縮のためフランジ処理面積を主桁と仮設鋼床版の固定部のみの1箇所あたり約0.4m²としており、作業量の低減を図っています。
合わせて、仮設鋼床版へ事前にグースアスファルトを施工し舗装作業の削減を行うことで、夜間通行止め時間帯作業の大幅な時間短縮を図っています(写真-5)。
 

【写真-5 仮設鋼床版設置作業】
 

2024年度からは、既設床版を仮設鋼床版へ取り替える作業と併せ、仮設鋼床版下で上フランジ処理を完了した箇所から順次、新設床版へ取り替える計画としています。
 
 

3. 九州自動車道 リニューアルプロジェクト

(1)路線特性

九州自動車道は、近傍にう回路となる代替の高速道路がなく、鳥栖JCT~久留米IC間(図-8)においては断面交通量が7万台を超える重交通区間です。
 
当該区間を併走している国道3号については、朝夕に慢性的な渋滞が発生している状況です。
 
今回、床版取替対象となる宝満川橋は、橋長が154.7mで橋梁形式が、鋼3径間連続非合成鈑桁橋の上下線各3車線からなる道路橋です。
 

(2)劣化による変状状況

変状事例を(写真-6)に示します。
 
当該区間は、供用から約50年が経過しており、重交通および大型車交通量の増加にともなう交通荷重による疲労ひび割れ部へ水が供給されるなど外的因子の侵入が材料劣化の進行を速めていることが確認されています。
 

【図-8 九州自動車道(鳥栖JCT~久留米IC)路線図】

 

         写真-6 宝満川橋の変状状況】
 

(3)交通運用計画

本路線は地理的条件から、施工期間中に発生が懸念される高速道路の渋滞など社会的影響を最小限とする必要がありました。
 
そこで、上下線各3車線の道路を、中分側、中央部、路肩側の3つに分割し、上下線それぞれで2車線確保できる方法を計画し床版取替を行いました。
施工ステップについては(図-9)のとおりです。
なお、NEXCO西日本では床版取替実施にあたり、車線分離規制を採用した例はなく、本工事での採用が初となります(写真-7)。
 
3分割で施工する際、(図-9)に示すとおり床版の一部が片持ち構造になること、中央部床版が接合する桁が1本となり不安定になることから、仮設桁により床版の一部を支持する構造を採用しました。
 
また、本工事は、(図-9)に示す施工期間のとおり、交通混雑期を除く通常期に床版取替を完了させることで、交通混雑期には規制解除を暫定的に行い、現況の上下線各3車線を確保しました。
 

 
【図-9 施工ステップ図】
 

【写真-7 車線分離規制状況】
 

(4)現場条件を考慮した施工方法

3分割施工では、既設床版と新設床版の間に橋軸方向の縦目地が発生します。
ゴールデンウィークや夏季繁忙期等の大型連休期間は、暫定3車線での開放となるため、縦目地は仮接合して舗装した後に交通開放します。
中分側床版の取替後における暫定3車線開放時の断面図を(図-10)に示します。
縦目地は車両の走行位置と近接しているため、交通振動や輪荷重の影響による縦目地部の舗装損傷が懸念されました。
そのため、舗装不具合の発生リスクを極力小さくした縦目地構造を採用しました(図-11)。
 

 
【図-10 暫定3車線開放時の断面図】
 

 
【図-11縦目地構造】
 
この縦目地構造は、新設床版については縦目地に突出する鉄筋を機械式継手とし、目地幅を80mmとしました。
既設床版については埋設ボルトを設置し、縦目地に間詰めモルタルを充填しました。
充填されたモルタルは、新設床版側の凹凸形状と既設床版側の埋設ボルトにより、両側の床版との一体化を図りました。
 
また、次施工時におけるモルタル撤去を簡易にするため、防炎シートを使用してモルタルと床版の縁切りを行いました。
 
上下線各3分割施工は、狭小なヤード内での既設床版撤去および新設床版架設となることから、一般的なトラッククレーン等による床版取替が困難でした。
そこで(写真-8)のとおり、特殊なクレーンを採用しています。
 

 

【写真-8 床版取替クレーン】
 
3分割施工のうち中央部の床版取替は、(図-12)に示すとおり施工箇所の両側を供用車線とする規制となります。
この規制では、一般車の施工箇所への進入防止を目的として供用車線と施工箇所の境界に仮設防護柵を設置する必要がありますが、設置および撤去作業には16tクレーンが必要であるため、アウトリガーを考慮し一時的に車線規制を設置する必要がありました。
 

 
【図-12 中央部床版取替時の規制断面】
 
そこで一時的な車線規制を回避することを目的に、仮設防護柵の単体重量が軽い2m幅タイプのものとしました。
加えて、排水用切欠きにハンドパレットが挿入できるように加工することで、仮設防護柵の設置および撤去作業が人力で可能となり、一時的な規制を回避することができました(写真-9)。
 

【写真-9 仮設防護柵移動状況】
 
 

4. おわりに

NEXCO西日本管内では、今回紹介した路線以外にも都市部や重交通区間でのリニューアル工事が控えています。
 
各地で、これまでのリニューアル工事での取組みや経験、得られた新たな技術的知見等を活かしつつ新技術の開発促進を継続的に行い、さらなる社会的影響の最小化、高耐久な道路構造物の構築を目指し、100年先の安全・安心のためのリニューアル事業を進めてまいります。
 
 

西日本高速道路株式会社 保全サービス事業部

 
 
【出典】


積算資料2024年6月号


最終更新日:2024-10-07

 

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