- 2015-03-01
- 積算資料公表価格版
4.助かった命をつなぐために
本県では、「命を守る」対策とあわせて、今年度から本格化させている、助かった「命をつなぐ」対策の中で、
まず重要となるのは、避難所確保の取り組みである。
4.1 避難所の確保
最大クラスの南海トラフ地震が発生すると、県全体で約12万人分の避難所が不足することが想定されている。
このため、指定避難所の耐震化や新たな避難所の指定に取り組むことに加えて、住まいの近くでの避難生活が可能となるよう、
今年度から自治会が所有する集会所の耐震化も支援することにより、避難所確保の取り組みを進めている。
こうした対策を行っても、多数の避難者の発生が想定される市町村においては、
当該市町村内の避難所だけでは受け入れが困難であることから、
市町村の圏域を超えた、いわゆる広域避難もあわせて検討する必要がある。
このため、県内を4ブロックに分け、広域避難の具体的な検討を行う基礎データとして、
各市町村における地域ごとの避難者数を算定した上で、避難所ごとの収容者数の過不足を把握することとしている。
今後、このデータを基に、広域避難の考え方を整理し、
平成27年度中には各ブロック内での避難者の受け入れなどに関する合意が図られるよう取り組みを進めていくこととしている。
4.2 避難所の運営体制
このほか、東日本大震災の発生当初、行政は人命救助に最優先で対応せざるを得なかったことなどから、
避難所の開設や運営体制の確立などに、十分に取り組めなかったことが報告されている。
本県においても同様の状況が懸念されることから、地域の皆様に、
自らが主体となって避難所を運営することの必要性を認識していただくとともに、
住民同士で迅速に避難所を立ち上げるルールづくりなどに取り組んでいただくことが重要であると考えている。
このため、地域の皆様が主体となった避難所運営の体制やルール、施設の利用計画、
また、高齢者や障害者など避難生活に配慮が必要な方を受け入れる態勢の考え方などを盛り込んだ
「大規模災害に備えた避難所運営マニュアル作成の手引き」を作成し、昨年10月に公表した。
今後は、地域が主体となった避難所運営体制の構築に向けて、この手引きを基に、各市町村において地域住民の方々と連携しながら、
避難所運営マニュアルの作成が進むよう支援していくこととしている。
4.3 総合防災拠点を8カ所整備
こうした「命を守る」対策と「命をつなぐ」対策を支える拠点として、県内8カ所に総合防災拠点の整備を進めている(図-5)。
県の被害想定では、道路の寸断などにより、沿岸部だけでなく山間部でも孤立集落が多数発生する。
地震により、土砂崩れなどが起きた場合、県全体で658集落が孤立するとの結果が出ている。
東西に長い高知県では、総合防災拠点のうち中核となる広域拠点を最東端の室戸市と最西端の宿毛市に整備すると同時に、
全県民の半数が住む高知市を含む中央部にも2カ所整備する。
最大となる高知市の春野総合運動公園は、2万㎡の陸上競技場を核に、およそ1万㎡の3つの運動広場のほか、
野球場、多目的広場、体育館などを広域総合防災拠点として整備する。
他県からの応急救助機関である自衛隊や警察、消防などの応援部隊を迎え入れ、活動のためのベースキャンプ機能を整えるほか、
災害医療活動支援機能、支援物資の集積・仕分け機能、備蓄機能などを整備する。
一方で、広域拠点を補完するための地域拠点を4カ所整備する。
この中には、高知大学医学部も含まれ、広域的な医療救護活動の支援を担う災害拠点病院であるとともに、
広域医療搬送拠点およびSCU(臨時医療施設)を展開する拠点となる。
総合防災拠点の整備方針や機能は、図-6のとおりである。
整備方針で大事な点は、「既存施設を活用する」ことである。
総合防災拠点の整備は、緊急性が高く、早期に整備する必要があることに加え、新たに整備するとなると莫大な費用も必要となる。
また、いつ発生するか分からない南海トラフ地震の発生後、即座に利用するため、
そのほとんどが平時からオープンスペースとなっている既存の運動施設や公園施設を選定している(図-7)。
さらに、この総合防災拠点の整備と連動する形で、平成26年4月から県内を5つのブロックに分け、「南海トラフ地震対策推進地域本部」を設置し、合計17人の防災専任職員を配置し、市町村や自主防災組織などと地域に根ざした取り組みを進めている(図-8)。
この地域本部は、通常時には総合防災拠点の整備や市町村の防災対策の支援などを行いながら、
発災時には各地域本部が管内の県の出先機関と連携しながら「災害対策支部」として活動し、
総合防災拠点の運営のほか、情報収集や市町村支援の調整を行うこととしている。
4.4 地震火災対策
このほか、地震が発生した場合、火災が同時多発的に発生し、木造住宅が密集した地域においては大規模火災となるおそれがある。
このため、今年度から有識者を交えた地震火災対策検討会を開催し、住宅密集地における出火防止や延焼防止、
そして、大規模火災となった場合でも人命を守る「安全な避難」といった視点で、
事前の対策や発生時にとるべき行動などについて検討を進めている。
具体的には、過去に、実際に住宅密集地で火災が発生した四万十市をモデルケースに、
住宅密集地での火災シミュレーションを行うとともに、東日本大震災の教訓として、
地震が発生したらブレーカーが落ちる「感震ブレーカー」の普及啓発にも取り組んでいる。
さらに、津波火災対策としても、漁業用屋外燃料タンクの対策や、農業用重油流出防止装置付きタンクの導入支援なども実施している。
4.5 被災した県民の命を総力戦で守り抜く体制を目指して
県では、約3万6,000人の負傷者が発生すると想定しており、
今年度から本格化させた「命をつなぐ」対策における重要な課題として医療救護体制の整備がある。
そのため、平成25年12月から約1年間、災害医療に関する有識者を交えた懇談会を開催し、
地震発生直後から1カ月程度の応急期における医療救護体制のあり方を検討してきた。
「被災した県民の命を総力戦で守り抜く体制の構築」を目指し、地域の限られた資源を最大限に活用しながら、
より負傷者に近い場所において「前方展開型」の医療救護活動を実現するため、
①既存の医療機関や医療救護所が被災しても必要な機能を維持すること、
②医療従事者はもとより、多くの県民が医療救護活動へ参加すること、
③必要な機材・薬品、輸血用血液を確保すること、
④県外からの人的・物的支援や患者搬送手段を確保すること
の4つをポイントに挙げ、取り組みを進めるべきと示された。
このほか、災害時における要配慮者への避難支援対策については、
「災害時要配慮者の避難支援の手引き」を作成するとともに、
災害時に要配慮者の方々が一時的に避難生活を送る場所となる福祉避難所の指定を促進している。
また、現在、市町村が取り組んでいる「避難行動要支援者名簿」や個人ごとの避難計画の作成と併せて、
大規模災害などを想定した避難訓練や福祉避難所の運営訓練に参加するなど、積極的に支援を行っている。
4.6 道路啓開計画の作成
地震発生直後に想定される情報の断絶や錯綜により被災状況が十分把握できない中においても、
助かった「命をつなぐ」ための地域ごとの拠点と、
県外からの応援部隊や物資を受け入れるための拠点とを結ぶルートを確保することが重要である。
そのため、迅速かつ効率的に道路の啓開を行うための計画の作成に取り組んでいる。
具体的には、地域において優先的に啓開を行うルートの起点となる地域の防災拠点について、
「命を守る」「命をつなぐ」「復旧」の3つの段階を想定し、役場庁舎や避難所、ヘリポート、備蓄倉庫などの1,165カ所を選定した。
また、これらの拠点と直近の総合防災拠点とを結ぶルートについて、道路の幅員や浸水区域を避けることなどを考慮し、
市町村道724路線を含む903路線を選定した。
今後、啓開日数を短縮するため、より早く啓開できるルートの再選定や落橋区間の復旧工法の再検討を進めるとともに、
啓開区間ごとの建設業者の配置や啓開手順書の作成に取り組んでいくこととしている。
5.生活を立ち上げるために
これまで述べてきたように、県では「命を守る」対策を最優先に全力で進めてきた。
その結果、津波からの避難路・避難場所の整備などは平成27年度末に概ね完成する。
また、「命をつなぐ」対策についても、避難所の確保や総合防災拠点の整備などについて、力を入れて取り組んでいるところである。
今後は、それに続いて、被災後の復旧・復興をイメージしながら「生活を立ち上げる」対策についても検討を始めることとしている。
例えば、早期に復旧・復興につなげていくために、あらかじめ被災後のまちづくりを見据えて、
土地利用のあり方を検討しておくことや、企業や市町村にBCPを策定していただくことも重要となる。
被災しても、県民の「命を守り」、助かった「命をつなぎ」、そして新たな「生活を立ち上げる」ために、
今後も、全力で南海トラフ地震対策に取り組んでいく。
COLUMN:南海トラフ地震法に基づく地震防災対策の推進
東日本大震災の発生から遡ること10年前の平成14年、東南海・南海地震に係る地震防災対策を進めるべく、
「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(東南海・南海法)が制定され、翌平成15年には、
「東南海・南海地震対策大綱」が決定された。
中央防災会議では、地震防災対策基本計画、地震防災戦略を策定し、
1都2府18県652市町村に及ぶ東南海・南海地震防災対策推進地域では、それぞれの立場から対策を推進してきた。
その後、平成23年に東日本大震災が発生し、いかなる大規模な地震や津波が発生しても人命だけは何としても守るとともに、
我が国の経済社会が致命傷を負わないようハード・ソフト両面からの総合的な対策の実施による防災・減災の徹底を図ることが
不可欠になった。
平成25年11月、東南海・南海法は「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(南海トラフ法)に改正され、
同年12月に施行された。
これにより、対象地震は東南海・南海地震から南海トラフ地震に改正され、
科学的に想定し得る最大規模の地震である南海トラフ巨大地震を想定して地震防災対策を推進することとなった。
南海トラフ法第4条では、南海トラフ地震防災対策推進基本計画として、下記にあげる点について定めることとしている。
●国の南海トラフ地震の地震防災対策の推進に関する基本的方針および基本的な施策に関する事項
●施策の具体的な目標およびその達成の期間
●南海トラフ地震が発生した場合の災害応急対策の実施に関する基本的方針
●指定行政機関、関係地方公共団体等が定める南海トラフ地震防災対策推進計画
● 関係事業者等が定める南海トラフ地震防災対策計画の基本となるべき事項等
指定行政機関、関係地方公共団体、指定公共機関、関係事業者、地域住民等は、
これらに基づいて定められる南海トラフ地震防災対策推進計画、南海トラフ地震防災対策計画等に基づき、
的確に地震防災対策を推進することとなる。
詳細は内閣府中央防災会議のホームページを参照されたい。
南海トラフ地震による被害想定と地方自治体の取り組み事例 ~高知県~《前編》
南海トラフ地震による被害想定と地方自治体の取り組み事例 ~高知県~《後編》
【出典】
月刊 積算資料SUPPORT2015年3月号
特集「防災・減災の社会資本整備に貢献する技術と製品」

最終更新日:2024-10-30
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