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(株)不動テトラ 地盤事業本部技術部 部長 原田 健二
         同      技術部長 大林 淳

 

1.はじめに

わが国においては、これまで多くの地震を経験し、
そこで認識された液状化現象を防ぐための方策も数多くの対策工法として開発されてきている。
レベル2地震動である1995年兵庫県南部地震後も多くの地震に襲われたが、
地盤改良を施した地域ではほとんど被害が生じなかった1)
また、2011年には非常に長い地震動継続時間を有する東北地方太平洋沖地震が発生し、
震源から350km離れた東京湾沿岸部でも広範囲に液状化が発生した。
この沿岸部には多くの地盤改良が施されていたが、
今回の地震においても改良地盤では液状化の痕跡やそれによる被害は報告されていない2)
 
本文においては、まず、液状化対策の変遷と動向を概略的に述べ、
今回の地震を通していくつかの改良地盤における効果の実証事例について報告する。
 
 

2.液状化対策の変遷と動向

2-1 液状化対策の原理と工法の変遷

液状化対策としては大きく“地盤改良による対策”と“構造的対策”に分類されるが、
地盤改良による液状化対策は液状化の発生原因となる因子を改善することがその目的となる。
図-1には液状化の発生を抑制する対策の原理と工法3)を示している。
 

図-1 液状化対策の原理と工法

図-1 液状化対策の原理と工法

 
地盤改良による液状化対策には、
「締固め」、「固化」、「置換」、「地下水位低下」、「間隙水圧消散」、「せん断変形抑制」があり、
わが国で実施されている液状化対策の主な原理は「締固め」、「排水」、「固化」の3つに大別される。
 

表-1 地盤改良による液状化対策工法の歴史

表-1 地盤改良による液状化対策工法の歴史

 
これらを原理とする工法の歴史的変遷は、表-1に示す通りである。
図から見るように、締固め工法の歴史が最も古く、
1950年代に振動式サンドコンパクションパイル(SCP) 工法(商標名はコンポーザー)が
粘土地盤を対象とした地盤補強工法として開発され、1960年代後半には液状化対策として適用されている。
排水工法ではグラベルドレーン(GD)工法が1970年代に、
固化工法では格子状深層混合処理(DM)工法(商標名はTOFT工法)が1980年代に液状化対策として開発された。
さらに、1995年兵庫県南部地震後には非振動式SCP工法(商標名はSAVEコンポーザー)が開発され、
市街地での施工が可能となった。
 

2-2 液状化対策の動向
図-2 三大液状化対策工法の概要

図-2 三大液状化対策工法の概要

 
図-2図-1に示す地盤改良による液状化対策三大工法である
SCP工法、DM 工法、GD工法の施工機械と施工方法を模式的に示した図である。
 

図-3 液状化対策工事件数の工法別割合

図-3 液状化対策工事件数の工法別割合

 
図-3は、液状化対策工事件数について原理別にそれぞれの工法の割合を示したものである3)
図-3(a)は1986年から1990年7月までの約5年間、
図-3(b)は兵庫県南部地震以降の1998年4月から2003年3月の5年間の実績であり、
両期間を比較すると、兵庫県南部地震を契機に液状化対策の工事件数は大幅に増加していることが分かる。
図-3(a)、(b)を比較すると、締固めを原理とする工事件数の割合に大きな変化はないが、
間隙水圧消散を原理とする工法の割合は減少し、固化を原理とする工法の割合が増加している。
また、図-3(c)は不動テトラの東京沿岸部(東京都、千葉県)における
1970~2010年での地盤改良の施工件数を工法別にとりまとめたものである4)
この地域でも多くの地盤改良が施されており、そのうち液状化対策は7割程度で、その9割程度、
すなわち全地改良施工件数の6割以上が振動式・非振動式SCPによる締固め工法であることが分かる。
 

図-4 液状化対策費用と施工面積の関係

図-4 液状化対策費用と施工面積の関係

 
図-4は、日本における一般的な地盤改良の施工対象面積と施工コストの関係を示した図5)である。
施工面積が十分広い場合にはSCP工法やDM工法などによる大型施工機を用いて比較的安価な施工が可能であるが、
狭隘な施工条件となると小型施工機を有する圧入式静的締固め工法や高圧噴射式DM工法が対応可能となる。
同図では、一般的に施工機が小型化すると機動性や生産性が低下して施工能率・数量とも小さくなり高価となることを示している。
 
 

3. 東日本大震災における液状化対策効果の実証事例

2011年東北地方太平洋沖地震においても、全ての対策箇所で改良効果が確認されているが、
ここでは、構造物ごとの実証事例、工法による比較事例、詳細な状況が示されている事例を紹介する。
 

3-1 構造物ごとの実証事例

写真-1 構造物ごとの対策効果の状況

写真-1 構造物ごとの対策効果の状況

写真-1 構造物ごとの対策効果の状況

 
写真-1は、 建築施設(直接基礎、杭基礎)、護岸、道路、河川堤防における
地震直後の無対策(上図)と対策(下図)箇所の状況を示したものである。
対策が施されていた付近の改良域と未改良域の境界付近の状況を示している。
各事例ともに地盤改良施工範囲の建物直近では、噴砂や沈下等の液状化被害は見られなかった。
しかし、主として改良域の外側に噴砂の痕跡や地盤沈下が生じていた。
 

3-2 工法による比較事例

写真-2 杭基礎構造物における挙動の相違の状況

写真-2 杭基礎構造物における挙動の相違の状況

写真-2 杭基礎構造物における挙動の相違の状況

 
写真-2は杭基礎構造物周辺部の状況である。
同写真(a)のように杭基礎のみの場合では、液状化すると周辺地盤が沈下して構造物周辺で杭が抜け上がったように見える。
これに対して地盤改良を併用すると構造物周辺ではこのような現象は生じないが、改良域と未改良域の境界付近には段差が生じる。
この段差の程度は同写真(b)、(c)でみるように、固化改良((b):TOFTによる)の段差は10~20cm程度であったのに対し、
締固め改良((c):SAVEコンポーザーによる)の場合は数cm程度であった。
この傾向は、改良部と未改良地盤との剛性の差の程度や改良時に周辺地盤に与える影響の有無などによるものと考えられる。
 

3-3 詳細な状況が示されている実証事例

ここで紹介する2つの詳細な状況が示されている構造物はいずれも建築物であり、SCP工法やGD工法による液状化対策が採られていた。
 

図-5 実証事例位置図

図-5 実証事例位置図

 
両施工場所を図-5に示しているが、2箇所とも周辺では液状化が発生した地域内に位置している。
 
①浦安市入船6)
当地区では上部のN値が10以下の緩い細砂~シルト質細砂の締固めによる支持力増加、液状化防止を目的にSCP工法が採用され、
主に3階建壁式鉄筋コンクリート造の建物の基礎に適用された。
また、2、3階建建物にはGD工法が液状化防止の目的で採用されている。
それぞれの建物の基礎形式は直接基礎(連続基礎)で、建物壁側面の交点には長さ8mの節杭が打設されている。
SCP工法の改良仕様は、2mの正方形配置(改良率as=12.5%)、改良長10mで、余改良範囲は構造物周辺の4mである。
一方、GD工法の主な改良仕様は、杭径φ400mmで1.8mの正三角形配置である。
 

図-6 改良平面図と噴砂位置図

図-6 改良平面図と噴砂位置図

 
当エリアでは地震時に図-6に示すように団地周辺の未改良部で周辺の道路部での液状化に影響されたためか噴砂が発生し、
団地敷地内でも同図に示す一部の未改良域で噴砂が発生したとのことである。
 

写真-3 地震後の状況(図-6 A地点より)

写真-3 地震後の状況(図-6 A地点より)

 
一方、改良域内では写真-3に示すように液状化被害は発生しなかった。
 
②江東区辰巳7)
当地区の基礎地盤には、
地表面から深さ13m程度までにN値が1~7で細粒分含有率が20~40%程度の軟弱な埋土層や緩い細砂層が堆積し、
その下部には非常に軟弱なシルト質粘土が深く堆積している。
地下水位はGL-0.7mと非常に浅く、それ以浅から13mまでの埋土層と細砂層が液状化対象層である。
 
同建築物は、免震構造の5階建で、建物本体は杭により支持されている。
液状化判定の結果、液状化の可能性のあったことから、液状化対策として、非振動式のSCP工法が採用された。
当地区の改良仕様は、図-7に示すように、砂杭(砂杭径φ700mm)の打設間隔は、
1.5mの正方形配置(as=16.7%)で改良深度は12mである。
 

図-7 改良平面図と噴砂位置図

図-7 改良平面図と噴砂位置図

 
建物外周部には、排水性の高い単粒度砕石を用いた砕石杭を2列千鳥配置(0.75m×1.5m)し、周辺からの液状化の影響を防いでいる。
 

写真-4 地震後の状況(図-7 A地点より)

写真-4 地震後の状況(図-7 A地点より)

 
写真-4は、図-7におけるA点の矢印に示す方向からの状況であり、
当地区周辺の未改良域の改良域から約20m離れた道路で噴砂や段差などが発生していることが分かる。
これに対し、地盤改良をした範囲では外周部を含めて建物本体にも被害が生じていなかった。
 
 

4. おわりに

本論文では、日本における液状化対策工法の現状と今回の地震での対策効果の実証事例を挙げ、その有効性について報告した。
 
 
 

参考文献

1)Yasuda, S., Ishihara, K., Harada, K. and Shinkawa,N. (1996).
“Effect of soil improvement on groundsubsidence due to liquefaction,” Special Issue of Soilsand Foundations, pp.99-107.

2)Yasuda, S. Harada, K. Ishikawa, K. and Kanemaru, Y.(2012).
“ Characteristics of the Liquefaction in TokyoBay Area by the 2011 Great East Japan Earthquake,”Soils and Foundations, 52(5), pp.793-810.

3)地盤工学会:地盤工学・実務シリーズ18、液状化対策, 2004.
4)原田健二:沿岸地区の液状化対策 SAVEコンポーザー-東北地方太平洋沖地震における改良効果-、土木施工12月号、pp.54-57、2011.
5)地盤工学会関東支部:造成宅地の耐震対策に関する研究委員会、造成宅地の耐震効果に関する研究委員会報告書-液状化から戸建て住宅を守るための手引き-、2013.
6)安田進、原田健二、石川敬祐:東北地方太平洋沖地震による千葉県の被害、地盤工学ジャーナル、Vol. 7, No.1, pp. 103-115, 2012.
7)原田健二、大林淳、吉冨宏紀:建築物における締固め工法による液状化対策効果の検証、基礎工、Vol.40, No,12, pp.47-49,2012.
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年11月号
特集「軟弱地盤と液状化対策」
月刊 積算資料SUPPORT2014年11月号
 
 

最終更新日:2024-10-30

 

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