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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 阿蘇大橋地区斜面対策工事にて実施した斜面対策工に特化した「のり面CIM」

 

はじめに

現在,建設業界では,生産システムの業務効率化や高度化を目指してCIM(ConstructionInformation Modeling / Management)の導入が活発化している。その中で,斜面対策工事においてもトンネル工事や道路工事,橋梁工事等と同様にCIMを導入し,安全性を確保するために適切な施工管理を行い,維持管理段階へ引き継ぐことが求められているものの,他工事と比較すると適用されている事例は少ない。例えば,一般社団法人日本建設業連合会による「2018施工CIM事例集」では,トンネル11件,道路5件,橋梁7件に対して,斜面対策工事は0件,2019年版においても本工事の1件のみとなっている。また,国土交通省による「CIM導入ガイドライン(案)」においても斜面対策工は示されていない。斜面対策工事においてCIMの適用事例が少ない理由としては,トンネルやダムと比較すると,1工事あたりの施工規模が小さいためにCIMを導入する効果が得られづらいこと,および斜面対策工事は地質と密接に関わっているものの,施工中の三次元的な地質評価が難しいことが挙げられる。
 
このような状況の中,阿蘇大橋地区斜面対策工事では,大規模斜面崩落であることから施工数量が多いこと,および災害直後であることから地質情報が少ない中で,施工中に得られた地質情報を整理しながら斜面対策工事を進める必要があったことから,CIMを活用しながら工事を進めることとした。
 
前述したように,斜面対策工事におけるCIMの実施の事例が乏しいことから,適応するソフトウェアは存在しない。そこで本工事では,斜面対策工事に特化したCIMのシステムを開発し,実施工に適用することとした。
 
 
 

1. 阿蘇大橋地区斜面対策工事の概要

阿蘇大橋地区では,2016年4月16日の熊本地震(本震)により大規模な斜面崩壊が発生した。崩壊の規模は,長さ約700m,幅約200m,崩壊土砂量は約500,000㎥(推定)にも及び,斜面の下部に位置する国道57号やJR豊肥本線が押し流され,国道325号の阿蘇大橋が落橋する大災害となった(図−1)。これらの寸断された交通網は,熊本都市圏と大分・宮崎を結ぶ生活,経済,観光を支える重要交通であることから,早期復旧を目指し,国が高度な技術力をもって崩壊斜面対策に取り組むこととなった。崩壊斜面の周辺には,開口亀裂や段差がみられ,余震や降雨の影響により崩落が拡大する恐れがあったことから,本工事に先立ち緊急対策として,「監視装置の整備」,「工事用道路の整備」,「土留盛土工の設置」,「頭部排土工」が実施された(図−2)。これらの工事では,崩壊斜面上部の不安定土塊が崩落することによる二次災害の恐れがあることから,対策前の崩壊地内は立入禁止とし,作業は無人化施工や遠隔操作にて実施された1)。
 

図−1 阿蘇大橋地区の被災状況

図−2 阿蘇大橋地区斜面対策の流れ


このような無人化施工による緊急対策工事の完成を受け,阿蘇大橋地区斜面対策工事として,恒久対策となる「のり面対策工」を開始し,有人作業による植生マット・ネット工等の施工を実施した。本工事の工事概要は,以下に示すとおりである。
 
 工事名称:阿蘇大橋地区斜面対策工事
 工事場所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字立野
 発注者:国土交通省九州地方整備局
 受注者:株式会社熊谷組
 工期:2017年9月7日〜2019年9月30日
 工事内容(主要工事,数量は当初)
  植生マット工    約71,300㎡
  密着型安定ネット工 約51,100㎡
  高強度ネット工   約17,200㎡
  鉄筋挿入工     約8,300本
 
なお,前述したように崩壊地内が立入禁止であったことから,ボーリング調査等が実施されていないため,土岩境界等の地山状況が把握されていない中で施工を進めなければならなかった。
 
一方,密着型安定ネット工では,アンカー工の確実な施工のために,土岩境界等の地山状況を把握したうえで地山に応じた適切なアンカータイプの選定を行う必要がある。このため,本工事では,施工中に地山状況を把握する調査を全施工箇所で行い,その結果に基づいてアンカータイプを決定することとした。このため,得られた大量の地質データを整理し,迅速,かつ効率的に施工管理を行う必要が生じた。このような状況から,本工事においてCIMを導入し,効率的に斜面対策工を実施する体制を整えることとした。なお,既存のソフトウェアでは,適応するものが存在しないため,本工事において斜面対策工事に特化した専用のCIM システム(のり面CIM)を開発した。
 
 
 

2. のり面CIMの開発

2.1 開発したのり面CIMの概要

のり面CIMは,斜面対策工の施工データを集約・三次元モデル化(可視化)し,一元管理した情報を次ブロックの施工へフィードバックすることにより,施工の効率化を図るシステムである。
 
本システムは,斜面対策工事で実施するグラウンドアンカー工や鉄筋挿入工などに対し,設置位置やアンカー諸元,当該箇所の地質情報,施工日,試験結果などの属性情報を各アンカーに付与し,三次元空間に配置する(図−3)。配置したアンカーには,施工状況写真や試験結果のデータシート等もリンクさせて直接ファイルを閲覧できる(図−4)。
 

図−3 のり面CIM三次元空間配置表示例

図−4 属性情報および施工写真表示例


2.2 開発したのり面CIMの特徴

本システムでは,Excel®等の表計算ソフトにて整理した施工実績のデータベースを読み取る仕様であり(図−5),現場での入力作業の負担が少なくなる工夫をしている。
 

図−5 Excel®による入力画面の例




なお,本システムは,三次元地質解析ソフトウェアを基本としていることから(五大開発株式会社製「Make Jiban®」のアドオン機能),調査ボーリングの三次元空間への配置や地質構造の三次元的な解析も可能であり,すべり面の形状や定着層の位置も三次元表示できる(図−6)。特にグラウンドアンカーにおいてこの機能は有効であり,すべり面と定着層の広がりの関係を三次元的に把握することが可能なことから,施工中に確認する定着層の異常値の発見が容易となる。さらに,斜面安定計算ソフトウェアへの連係が可能なことから,地質状況が想定と異なった場合には,早急に再計算ができる仕組みとなっている。その一方で,三次元地質解析ソフトウェアを使用したことから,グラフィックボードを搭載したある程度ハイスペックなパソコンを準備することが望ましい。
 

図−6 すべり面の三次元表示例




 
 

3. のり面CIMの適用

阿蘇大橋地区斜面対策工事では,密着型アンカーネット工についてのり面CIMを適用した。また,グラウンドアンカー工において施工後のCIM化を実施した。

3.1 密着型アンカーネット工での事例

密着型安定ネット工は,土砂厚に応じて適切な鉄筋挿入式のアンカータイプを選定する必要があるものの,前述したように本工事では地山状況(土岩境界)が把握されていなかった。よって,本工事で実施するのり面CIMにおいては,探針棒調査(鉄筋の土層への打ち込み)および振動センサーを使用して土砂層の厚さをアンカー施工箇所の全点(約13,000点)で確認する調査を施工中に実施した(図−7)。また,確認した土砂層の厚さから土砂と岩の境界を三次元モデル化し,アンカー諸元(種別,アンカー長),アンカー配置,アンカー強度をCIMにより一元管理して,次施工にフィードバックを行った。
 

図−7 探針棒による調査状況




本システムでは,表計算ソフトにて作成した施工実績のデータベースを読み取り,密着型安定ネット工のアンカーを三次元空間上に配置する(図−8)。また,読み込んだ実績データ(土砂厚)を基に3次元の地質境界(土岩境界)が自動生成される。さらに,アンカーの属性(諸元)を一本ごとに表示する機能を有しており,状況写真や帳票等もリンクさせることが可能である。
 
密着型アンカーネット工におけるCIMを適用した施工のフローを図−9に示す。
 

図−8 密着型アンカーネット工CIM適用状況

図−9 のり面CIM施工フロー図



 

3.2 グラウンドアンカー工での事例

地山状況が不明確という地質的な課題があったことから,当初,のり面CIMの適用は崩壊地内の密着型アンカーネット工のみとした。また,時間的な制約があったことから,密着型アンカーネット工専用のCIM として開発した。このため,汎用性が低く,他工種への転用が困難であったため,グラウンドアンカー工や鉄筋挿入工等の他工種への対応可能とする改良を行った。改良したシステムについて,阿蘇大橋地区斜面対策工事で実施されたグラウンドアンカー工において,施工後であるものの試験的にCIMを適用した。
 
グラウンドアンカーで実施したのり面CIMは,密着型安定ネット工にて適用したものと同様に表計算ソフトにて作成した施工実績やアンカー諸元を読み取り,アンカー(反力体およびテンドン)を三次元空間上に配置する(図−10)。データベースに定着層出現深度が入力されている場合には,自動的に地層境界(表層部と定着層との境界)を三次元で作成して表現することが可能となっている。作成した地質境界は,地表面やアンカー体,すべり面等と同じ三次元空間内で表示することが可能で(図−10),直感的に定着層の形状やすべり面との関係を捉えることができる。また,任意の場所の断面図を表示することが可能となっている(図−11)。
 

図−10 グラウンドアンカー工のり面CIM適用状況

図−11 グラウンドアンカー工適用事例任意断面表示


 
 

4. のり面CIMの効果

のり面CIMは,施工中の調査データや施工実績を集約・三次元モデル化(可視化)し,一元管理した情報を次ブロックの施工へフィードバックすることで,施工の効率化を図った(図−12)。仮に,のり面CIMを導入しなかった場合,未着型アンカーネット工では地盤条件が定かでない状況であったことから,少なくとも施工当初は抽象的な感覚でアンカー諸元を判断していたと考えられ,ある程度の規模の手戻りが発生していた可能性がある。施工前に想定した密着型安定ネット工の数量では,土砂部用もしくは土被り用アンカーが主体と考えていたものの,実際には岩部用アンカーが主体となり,数量的には約12,000本の差異がみられた。このうち,1割が手戻りとなったと仮定した場合,1,200本のやり直しが発生したことになる。密着型安定ネット工のアンカーは,40本/日程度が施工できることから,30日程度の工程短縮効果があったと想定される。
 

図−12 のり面CIM実施概念図




 

5. 今後の取り組み

のり面CIMは,地質解析ソフトウェアをベースに開発したことから,維持・管理に引き渡す場合,専用のソフトウェアが必要となり,かつ操作に専門の知識が必要となる。
 
このため,現在はビューワーを用いる簡便なシステムを構築し,展開を予定している。また,維持・管理段階で得られたデータをビューワーでも随時更新できるような仕組みとする予定である。
 
 
参考文献
1) 中出 剛・北原 成郎・光武 孝弘・野村 真一:無人化施工技術を核としたi-Constructionによる緊急災害対応−阿蘇大橋地区斜面防災対策工事−,地盤工学会誌,Vol.66,1,pp.20-23,2018年

 
 
 
 

九州地方整備局  江口 秀典,山上 直人
株式会社熊谷組  石濱 茂崇      

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年6月号


 

 

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