- 2019-04-23
- 特集 上水・下水道施設の維持管理 | 積算資料公表価格版
1 はじめに
平成24年の中央自動車道笹子トンネルの天井版落下事故などを教訓として,下水道法が改正され,維持修繕基準が創設された。その中で,公共下水道および流域下水道の排水施設の点検が義務化され,とりわけ「腐食するおそれが大きいものとして国土交通省令で定める排水施設の点検は,五年に一回以上の適切な頻度で行うものとすること」と定められた。さらに,腐食するおそれが大きい排水施設については,点検の方法と頻度を事業計画に記載することが義務付けられた。本手引きは,これらの社会状況を踏まえ平成28年度に改定を実施しており,腐食するおそれが大きい箇所の確認やその選定において,“必読の一冊”と考えている。
1. 本手引きの構成概要
本手引きは,4章から構成されており,各章の概要を下記に示す。
【第1章 総論】
総論では,本手引きの主旨,適用範囲,用語の定義,ストックマネジメントの基本的な考え方,管路施設の点検・調査・診断ならびに老朽化対策・腐食対策の検討フローについて記述した。
【第2章 点検】
点検では,最初に維持修繕基準の創設に触れ,一般環境下および腐食環境下(腐食するおそれが大きい排水施設)の環境区分を記述した。また,点検については,コンクリートが腐食する条件をまとめたうえで,それぞれの環境下における対象施設の選定,点検の頻度,範囲,単位,方法,項目を具体的に記述した。
【第3章 調査】
調査では,段階的に行う視覚調査と詳細調査の具体的な方法について記述した。加えて,調査で発見された損傷などに対する緊急度の判定方法について記述した。これらは,第4章における「修繕・改築の選定」,「対策工法の選定」などに活用される。さらに,「ストックマネジメント実施に関するガイドライン-2015年版-(国土交通省水管理・国土保全局下水道部)(以下,「ガイドライン」という)」や当協会発行の維持管理指針の関連部分を再掲した。
【第4章 管路施設の老朽化対策・腐食対策】
老朽化対策では,管きょとマンホールの対策について,修繕と改築に区分し記述した。さらに,ガイドラインや維持管理指針の関連部分を再掲した。また,腐食対策では,防食,発生源対策,腐食抑制対策を最新の内容に修正するとともに,布設替え・更生工法を追記した。
2. 本手引きの改訂ポイント
本手引きは前述の社会状況を踏まえ,平成28年度に改定を実施した。改定ポイントは下記のとおりである。
2-1 腐食するおそれが大きい排水施設の記述
平成27年の改正下水道法において,維持修繕基準が創設された。それを受け,点検の基準として下水道法施行令第五条の十二において,「腐食するおそれが大きい排水施設」については5年に1回以上の頻度で点検することとされ,下水道法施行規則第四条の四において,具体的な材質,箇所が規定された。また,これらの箇所については,点検の方法と頻度を事業計画に定めることが義務付けられた。下水道法施行規則第四条の四のとおり,腐食するおそれが大きい排水施設は,下記に掲げる箇所およびその周辺に限るとされている。
これを踏まえ,「ガイドライン」では,それぞれ圧送管の吐出し先と落差・段差の大きい箇所を一の解釈(図-1,図-2),伏越し下流部およびそのほかの箇所を二の解釈(図-3)とし,①圧送管吐出し先,②落差・段差の大きい箇所,③伏越し下流部,④そのほか腐食するおそれの大きい箇所として明示している。また,「ガイドライン」では,これらを参考に,各地方公共団体における腐食劣化の実績,これまでの点検・調査で把握した腐食環境などを踏まえ,対象箇所を選定するとの記述がされている。
本手引きでは,腐食事例に関する自治体へのアンケート結果(図-4)を踏まえ,腐食するおそれが大きい排水施設の説明を行うとともに,各箇所の補足説明を行っている。圧送管の吐出し先の事例が全体の7割を超えていることから,特に優先的に点検・調査を実施することが望まれるとしている。

図-1 圧送管吐出先の管路施設におけるコンクリート腐食の概念図

図-2 落差・段差のあるマンホール部での硫化水素ガスの発生イメージ

図-3 伏越し下流部におけるコンクリ―ト腐食の概念図

図-4 腐食するおそれが大きい箇所等の事例数
2-1 腐食するおそれが大きい排水施設の記述
本手引きでは,アンケート調査結果などに基づ
いて,腐食環境条件の分類(表-1)を整理し,腐食環境条件の分類に応じた腐食対策の基本方針(表-2)を示した。表-2に示す主な腐食対策の具体内容は,本手引きを参照されたい。

表-2 腐食環境条件の分類に応じた腐食対策の基本方針
2-3 ストックマネジメントを踏まえた総合的な対策検討フローの作成
管路施設の維持管理では,予防保全型の維持管理を前提に,中長期的な視点で施設を計画的に維持管理していく必要がある。そのためには,想定されるリスクを適切に評価し,維持管理計画の管理目標を設定して,施設の機能を持続的に確保するよう,維持管理実務者が的確に実務に取り組み,PDCA サイクルの活性化と継続的改善に努めていくことが重要である。
計画的維持管理は,「巡視・点検」,「調査」,「清掃」,「修繕及び改築」を一連の流れで実施することにより効果を発揮するものである。管路施設の点検・調査計画の作成から,その結果に基づく対策の必要性の判定,修繕と改築の選定,対策方法の選定などを含む修繕・改築計画の作成,それらの実施に係わるまでの流れを図-5および図-6にす。
点検・調査や修繕・改築で得られた情報は,継続的にデータベースとして蓄積し,定期的に分析・評価した上で適宜点検頻度を見直すなど,効率的にストックマネジメントを推進することが望まれる。例えば,管路施設は厳しい腐食環境下では腐食が進行する。点検,調査の結果,緊急度が低いと判定されても,5年後には腐食が急激に進行しているなどのケースも考えられる。このような場合,点検頻度を多くするなどの見直しを行い,逆に,前回の点検結果から損傷状況に変動がない場合は点検頻度を少なくするなどの見直しを行うことで,効率化を図っていくことが求められる。なお,防食被覆層の設置,改築は,従来から内部防食として交付金対象事業となっているが,管路施設の腐食対策には,更生工法が適用される可能性がある。その場合,ストックマネジメント計画を策定する必要があることから,図-5の3.3診断に示す(ア)管きょの腐食以外の(イ)上下方向のたるみ,(ウ)不良発生率に基づく判定の項目も点検・調査する必要があることに留意する。

図-5 管路施設の点検・調査・診断の検討フロー

図-6 管路施設の腐食対策・老朽化対策の検討フロー
2-4 点検の定義と安全衛生管理の記述
点検の定義は,下記のとおりとしており,「ガイドライン」で定義されている点検の定義(目視点検は原則入孔)を準拠している。それに伴い,安全衛生管理の節を新たに設けた。

図-7 酸素濃度と人体反応

図-8 硫化水素濃度と人体反応
おわりに
人口減少・高齢化の顕在化,財政状況の逼迫および自然環境状況の変化など,下水道事業の持続性確保が厳しくなる中,ストックマネジメントの重要性が一層高まっている。本手引きは,下水道事業の持続に向けたストックマネジメントへの移行が求められている地方公共団体の事業運営に資するため,管路施設の腐食にとどまらず,管路施設のライフサイクル全般を通じての手引きとして活用できるよう配慮している。具体的には,点検・調査・対策の優先度の判定・修繕・改築と続く一連の管路施設のストックマネジメントの流れを体系的に示した。また,下水道法改正などとの整合を図り,定期的な点検が義務付けられた「腐食のおそれの大きい管路施設」の選定方法などを具体的に示した。加えて,国土交通省のガイドラインや下水道施設の改築に関する通知文,維持管理指針なども必要に応じ再掲し,技術面,財政面から,本手引きだけで管路施設のストックマネジメントが実践できるよう編集した。このほか,厳しい腐食環境下にある管路施設の腐食対策を具体的に示すとともに,最新の技術動向なども示した。
現在,長寿命化計画からストックマネジメント計画への移行期間であることもあり,ストックマネジメント計画の策定は,約4割に止まっており,本手引きの需要は,今後,ますます高まるものと考えている。本手引きが下水道実務者に活用して頂ければ幸甚である。
【出典】
積算資料公表価格版2019年2月号 特集 下水道施設の維持管理

- 維持管理【既設人孔耐震化工法(ガリガリ君)/更生管マンホール接続部耐震化工法(耐震一発くん)】|下水道既設管路耐震技術協会
- 維持管理【フロートレス工法(マンホール浮上抑制工法)】|下水道既設管路耐震技術協会
- チェン【ステンレスチェン】|センクシア(株)
- 試験・測定機器【電磁式・渦電流式両用膜厚計/ピンホール探知器】|(株)サンコウ電子研究所
- 下水道管路更生工【FRP内面補強工法(熱硬化・光硬化)】|FRP工法協会
- 下水道管渠更生工【SPR-SE工法】|日本SPR工法協会
- 洗浄剤【アイスピグ管内洗浄工法】|アイスピグ研究会
- コンクリート防食工【スワエールスプレーシステム】|スワエール協会
- コンクリート防食工【ダイナミックレジン/DSK-2T-EP工法/DSK-3T-EP工法】|アイカ工業(株)
- 下水道管路更生工【TDRショットライニングシステム】|飛島建設(株)
最終更新日:2023-07-10
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