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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > 下水処理場施設の腐食対策について

 

はじめに

日本下水道事業団(以下,JS)では,これまで,研究課題を自ら設定し主体的に実施する調査研究(『基礎・固有調査研究』)や民間企業等との『共同研究』等を起点として,オキシデーションディッチ法(OD法)や,膜分離活性汚泥法(MBR),コンクリート防食技術等,下水道分野のスタンダードとなっている処理法や技術の開発・指針化等を行い,広く全国の地方公共団体に普及させてきました。また,地方公共団体等の個別課題に対する『受託調査』の実施により適切なソリューションの提供を行ってきました。昨年4月,今後の技術開発の基本的な方針や具体的に取組むべき内容などを示した「JS技術開発基本計画(4次計画)」(計画期間=平成29〜33年度)を策定し,本年1月には,必要な施設整備と具体的な調査研究事項を定めた「基礎・固有調査研究の中期計画」を策定しております。
 
本稿では,それら計画の概要と開発目標の一つである「総合的な下水道施設防食対策技術の確立」について,下水道施設におけるコンクリート腐食の概要および四半世紀以上にわたるJSでのコンクリート防食に関する取組みの経緯,平成29年度に調査研究の一環として実施したアンケート結果,平成30年度以降の取組予定について紹介します。
 
 
 

「JS技術開発基本計画(4次計画)」と「基礎・固有調査研究の中期計画」

JSでは,昨年3月に策定した第5次中期経営計画に示しているJSの役割である下水道ソリューションパートナーとしての総合的支援,下水道ナショナルセンターとしての機能発揮を着実に果たすため,昨年4月に「JS技術開発基本計画(4次計画)」(計画期間=平成29〜33年度)を策定しました。(図-1)JS 技術開発基本計画とは,JSにおける技術開発の基本的な方針や方向性,具体的に取り組むべき技術分野や開発課題,実施方策などを示すことを目的として,これまで3次にわたり策定されており,4次計画とは,それに続く,平成29年度からの5年間を対象とするものです。本計画では,4つの技術分野,10の開発目標,35の開発課題を定めています。さらに本年1月には,「基礎・固有調査研究の中期計画」(計画期間=平成29〜33年度)を策定しました。(図-2,3)これは,国土交通省が平成27年度に策定した「下水道技術ビジョン」および前述の「JS技術開発基本計画(4次計画)」を踏まえ,JS自らの財源を確保し,安定的かつ継続的に基礎・固有調査研究を実施し,地方公共団体に成果を還元できるよう,必要な施設整備と具体的な調査研究事項を定めたものです。本計画では,基礎・固有調査研究の対象として,今までの固有調査研究等の成果を時代の要請に応じ更に「進化・継続」させ,地方公共団体等に還元する技術「コア技術」の調査研究,民間企業との共同研究等の成果を「仕様化・標準化」し,地方公共団体等に還元する技術「標準化技術」の調査研究,今後の技術進化に向けJS が「先行・先導」して基礎調査研究を進める技術「先導技術」の調査研究の3つの技術分野を定めています。本計画を着実に実施することで,さらなる技術開発の推進と新技術の導入の促進を図っていく考えです。
 

図-1 JS技術開発基本計画(4次計画)基本概念のイメージ)




図-2 基礎・固有調査研究の中期計画(背景・目的)




図-3 基礎・固有調査研究の中期計画(対象技術)




 

「総合的な下水道施設防食対策技術の確立」

「JS技術開発基本計画(4次計画)」の開発目標の一つとして,「総合的な下水道施設防食対策技術の確立」を挙げており,「有機酸・炭酸腐食等新たな防食技術の確立による施設の長寿命化」,「金属腐食対策技術の確立による施設の長寿命化」,「硫酸腐食対策の充実による施設の長寿命化」といった開発課題について取り組むことにより,総合的な防食対策技術確立を目指しています。
 
(下水道施設におけるコンクリート腐食)
下水道施設内のコンクリート構造物では,一般のコンクリート構造物の中性化,塩害,アルカリ骨材反応等による耐久性の低下に加え,下水道施設特有の使用環境下において硫酸による腐食,硝化の進行に伴うpH低下による劣化,高濃度炭酸ガスや侵食性遊離炭酸による劣化,オゾンや高濃度有機酸による劣化等があります。コンクリート劣化要因の中で劣化速度が速く,著しいのは硫酸による腐食です。硫酸によるコンクリート腐食は,下水中あるいは汚泥中の硫酸イオンに起因する硫酸塩還元細菌と硫黄酸化細菌の代謝による化学的浸食(図-4)であり,下水道施設で特徴的に見られる現象ですが,特に終末処理場等においては,流入きょ,沈砂池,着水井,水処理施設の一部(調整槽,最初沈殿池等),汚泥処理施設の一部(汚泥貯留槽,汚泥濃縮槽等)などで顕著に見られます。(図-5)下水道施設のコンクリート構造物の腐食を防止し,耐用年数を可能な限り長く保持するためには,適切なコンクリート腐食対策が不可欠です。
 
下水道法施行令では,排水施設及び処理施設に共通する構造上の基準として,腐食防止対策の実施が規定されており,平成27年11月に施行された改正下水道法では,維持修繕基準が創設され,管路施設において腐食の恐れの大きい箇所について5年に1回以上の頻度で点検が義務付けられるなど,近年,腐食対策の意識がこれまで以上に高まってきています。
 

図-4 下水道施設における硫酸によるコンクリート腐食の概念図
(日本下水道事業団:下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアルより)


 

図-5 下水道施設における硫化水素ガスが発生しやすい部位
(日本下水道事業団:下水道構造物に対するコンクリート腐食抑制技術及び防食技術の評価に関する報告書―硫酸によるコンクリート腐食の機構と総合的対策の方針―,平成13年3月より)




 
(JSのコンクリート腐食に関する取組み経緯)
JSでは,わが国の下水道施設で硫化水素に起因する硫酸によるコンクリート腐食が顕著化を始めた昭和50年代後半より現在に至るまで,施設の実態調査やコンクリート腐食のメカニズム,コンクリート防食技術の開発等の調査研究を継続的に行ってきています。
 
昭和55年代,全国各地の下水道施設で硫化水素によるコンクリート躯体や設備の劣化,損傷が出現し下水道施設における硫酸によるコンクリート構造物の腐食が顕著化しました。
 
JS最初の取組みは,昭和56年度の鹿児島市南部処理場の水処理施設における腐食調査でした。昭和61年度から地方受託調査として,コンクリート腐食が発生した下水道施設の実態調査を行い,コンクリート腐食のメカニズム,コンクリート防食技術等の調査研究を進めてきました。この頃,アメリカ環境保護庁より「下水道施設の臭気と腐食に関する設計マニュアル」が発刊されています。そして,昭和62年3月に,国内での調査結果,米マニュアルを踏まえ,「コンクリート防食塗装指針(案)」がJS内部資料として作成されました。これは,JS初のコンクリート腐食に係る資料であり,沈砂池や最初沈殿池,汚泥濃縮槽,消化槽などを対象にタールエポキシ樹脂塗装を標準とし,2通りの設計仕様のみ規定しました。さらに平成に入り,下水道整備の普及が進む中,新規建設施設のコンクリート腐食対策が急務であったこと等を背景に,平成3年3月には,それまでの民間企業との共同研究等を踏まえ,「コンクリート腐食指針(案)」を制定しました。その中では,4段階の腐食環境の分類を決め,それに応じて,塗布型ライニング工法の標準設計仕様(防食材料,設計厚,積層構成)を定めた6通りの防食設計仕様を定めました。また,平成3年度からは,JS独自の固有研究をスタートさせ,コンクリート腐食促進実験装置(エイジトロン)を製作する等して,コンクリート腐食環境と腐食速度の関係,硫酸によるコンクリート腐食の判定手法の調査,各種防食ライニング工法の機能調査等を行いました。平成5年度以降,防食被覆材料及び工法(樹脂ライニング工法)などについて民間企業と共同研究を多数実施するとともに,平成9年度まで実施していた民間技術審査証明で耐硫酸性の防食ライニング工法8技術の審査証明を行いました。これらの成果を踏まえ,平成5年,平成9年に「コンクリート腐食指針(案)」第1次改訂,第2次改訂を行い,適用可能な防食被覆工法(シートライニング工法)と設計標準仕様を追加しました。平成9年度からは,それまでの調査研究成果に基づき,コンクリート腐食機構や腐食環境,樹脂ライニングによる防食性能や防食工法等を体系的に整理するとともに,JS技術評価委員会において「下水道構造物に対するコンクリート腐食抑制技術及び防食技術」に関する技術評価が行われ,平成13年3月に答申されました。これは,硫酸によるコンクリートの腐食機構および腐食現象を明らかにするとともに,腐食対策技術の機能評価,腐食環境に応じた最適な総合対策の選定の基本方針を示したものです。この技術評価に基づき,「コンクリート腐食指針(案)」を全面的に改定した「下水道コンクリート腐食抑制技術および防食技術指針・同マニュアル」(以下,防食技術マニュアル)が平成14年11月に制定されました。これは,防食技術を含めた腐食抑制技術についてまとめたもので,腐食抑制技術と防食技術による設計・施工・維持管理にわたる総合的な腐食対策が明確化され,従来の防食指針における防食被覆工の設計標準仕様を規定する方法から,耐硫酸性,遮断性,接着安定性等の性能要求項目に対する品質規格を規定する(耐用年数)性能評価型への移行が明記されました。平成12年度からは,耐硫酸モルタル工法の共同研究に着手し,普通モルタルの5倍程度の耐硫酸性を有する耐硫酸モルタルを開発しました。この研究成果に基づき,平成20年3月に技術評価が答申され,この評価内容を踏まえて,平成24年4月に防食技術マニュアルが改訂され,耐硫酸モルタル防食工法が追加されました。平成16〜平成19年度には,民間企業との共同研究により,普通モルタルの10倍程度の耐硫酸性を有する耐硫酸性モルタルの開発を行いました。また,実施設での試験施工を実施し,10年間の追跡調査により,所用の性能の実証を行っています。(写真-1)平成22〜24年度には,改築更新時の多様な施工環境に応じたコンクリート防食技術の開発を目的に,従来技術と比較して,品質安定性に優れ,現場施工性が高い,シートライニング工法(光硬化型) を民間企業との共同研究で開発しました。(写真-2)この成果に基づき,平成27年7月に技術評価が答申され,評価内容を踏まえて,平成29年12月に防食技術マニュアルが改訂され,プリプレグ後貼り型シートライニング工法が追加されました。この改訂では,その他に,平成27年3月に制定されたJISA7502「下水道構造物のコンクリート腐食対策技術について」に対応した用語の定義,設計手順等の整理や,耐有機酸性の品質規格の追加等を行いました。また,硫酸腐食以外では,平成21〜25年度に下水道施設における炭酸,オゾンによるコンクリート劣化対策として,オゾン暴露試験装置を用いた試験研究を実施し,モルタル,樹脂被覆材等による劣化状況の比較等を行いました。
 

写真-1 耐硫酸モルタル工法の試験施工状況(最初沈殿池 流出トラフ)

写真-2 シートライニング工法(光硬化型)の施工例




 
(平成29年度実施のアンケート調査結果および平成30年度以降の取組予定)
前述のとおり,JSでは,これまで,硫酸によるコンクリート腐食対策を中心に防食被覆材料や工法について技術開発を行い,技術基準類を整備してきました。しかし,実際の腐食環境条件と施工後の防食被覆層の劣化状況などの関係については,ほとんど知見がない状況です。また,近年,嫌気性消化プロセスや高効率な散気装置の導入の増加などに伴って,有機酸や高濃度炭酸ガス,侵食性遊離炭酸による化学的浸食に起因するコンクリート劣化・腐食が着目されていますが,下水処理施設における発生の実態や腐食環境条件などは明らかではありません。そういった課題を踏まえ,「基礎・固有調査研究の中期計画」に基づく,下水道施設の総合的なコンクリート腐食対策の確立を目指した調査研究の一環として,平成29年度は,下水処理場のコンクリート躯体の劣化・腐食や防食被覆工法の劣化・不具合などの全国的な発生状況等の把握を目的に,1,900施設の下水処理場を対象として,全国826の地方公共団体にアンケート調査を実施しました。調査項目は,表-1に示す6つの大項目に関して,腐食・劣化の発生や補修・修繕の実施の有無,該当する施設や部位,工法,発生した劣化・腐食の種類などについて,選択肢により回答を求めました。(回答率約50%)本調査により,下水処理場におけるコンクリート腐食や防食被覆工法の実態についての概況を把握することができました。また,劣化発生箇所の該当施設から,硫酸以外の要因による劣化の可能性がある施設が浮かび上がるなど,有機酸や侵食性遊離炭酸の実態調査に繋がる成果も確認することができました。(表-2)しかし,防食被覆工法の施工後の腐食環境条件と劣化等の関係の把握および有機酸や侵食性遊離炭酸によるコンクリート腐食について,その腐食機構や腐食環境条件の解明のためには,連続モニタリングや試料分析などの現地調査が必要です。平成30年度からは,アンケート調査結果を基に,現地調査先を選定し,硫酸腐食に関する施工後の事後調査と有機酸・炭酸腐食に関する実態調査それぞれで現地調査を実施する予定です。それら現地調査から得られた成果を取りまとめるとともに,必要に応じて,マニュアルに反映させていく考えです。
 

表-1  H29下水処理施設における腐食等に関するアンケート 調査項目




表-2 防食被覆工法未施工箇所について補修実績・劣化状況の施設別出現順位(H29アンケート調査)




 

おわりに

平成30年度から実施している下水処理場におけるコンクリート腐食の現地調査の実施に当たっては,研究を着実に実施するため,現場を有する地方公共団体はもちろんのこと,関連分野に強みを有する大学等との連携が必要不可欠と考えています。また,新規防食工法や耐有機酸・耐炭酸防食工法の開発についても,民間企業との共同研究等により,検討を進めたいと考えています。JSでは,「JS技術開発基本計画(4次計画)」と「基礎・固有調査研究の中期計画」に基づき,コンクリート防食技術以外の開発課題についても調査研究を継続して取組むことで,わが国の下水道技術の開発や実用化を先導・牽引できるよう努力していきたいと考えています。
 
 
 

地方共同法人 日本下水道事業団 技術戦略部 技術開発企画課 中西 啓

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年2月号 特集 下水道施設の維持管理



 

 

最終更新日:2023-07-10

 

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