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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > 鉄筋コンクリート組積造(RM造)に関する各種基・規準の変遷について

 

はじめに

石や焼成煉瓦ならびに日干し煉瓦を用いた無補強の組積造による建物は,世界で最も普及している建築工法である。
わが国において煉瓦は幕末に西洋より導入され,その後煉瓦は多くの公共建築物に使われ,赤煉瓦の建物は文明開化の象徴となった。
しかしながら,濃尾地震(1891年)や関東地震(1923年)において多くの煉瓦造建物が大破・崩壊し多くの死者や負傷者を出したことから,これ以降は鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造による耐火・耐震構造の普及が進み今日に至っている。
 
コンクリート製のブロックの特許は,1932年にイギリスのランガーが初めて取得し,1901(明治34)年にアメリカでコンクリートブロックマシーンが考案されている。
わが国では4年後の1905(明治38)年に初めて導入され生産が開始された。
その後,数多くの先人達によって鉄筋ブロック造関連の特許や実用新案が取得され,数多くのコンクリートブロック造建物が建設されたようである(※1)。
 
当時のコンクリートブロック造は鉄筋コンクリート造の廉価版というよりは,むしろ防火・防水性能はもちろんのこと経済的でかつ意匠性にも優れていると紹介されている。
 
本稿では,鉄筋コンクリート組積造(RM造)の紹介とRM造の開発の基となっている型枠コンクリートブロック造に関連する基・規準類の変遷ならびにRM造の開発経緯およびRM造に関する基・規準類の変遷を記載することとしたい。

 
 

1. RM構造建築物概要

RMとはReinforcedMasonryの略で,鉄筋コンクリート組積造という意味である。
鉄筋コンクリ―ト造をRC(ReinforcedConcrete)造と略称するのと同様である。
RM構造建築物は外観上図-1のような建築物である。

  • RM構造建築物の概念図
    図-1 RM構造建築物の概念図


  • また,アールエム建築推進協議会の機関誌であった『RM建築』の表紙に使用されたRM構造建物の写真のうちの一つを写真-1に示す。
     

  • RM構造建築物(サブリオガーデン、岡山県倉敷市)
    写真-1 RM構造建築物(サブリオガーデン、岡山県倉敷市)


  • RM構造建築物は,RMユニット(コンクリートRMユニットとセラミックRMユニットの両者がある)と呼ばれる組積用単体を組積(モルタル目地工法と目地モルタルを用いない打込み目地工法がある)し,その空洞部に縦・横に所要の補強筋を配し,さらにグラウト材(コンクリートまたはモルタル)を全充填することによりRMユニットと鉄筋ならびにグラウト材が一体化した鉄筋コンクリート組積造(RM造)である。
    耐力壁と壁梁ならびにRC造のスラブ,基礎および基礎梁より構成される壁式構造で,「組積造」と「鉄筋コンクリート造」のハイブリッドシステムである。
     
    RMユニットの品質規格として,平成12年建設省告示第1446号(最終改正 平成19年国土交通省告示第619号)および「RM造用ユニットの品質規格」2)ならびにJIS A5406(建築用コンクリートブロック)-2017がある。RMユニットの形状例を図-2に示す。
     

  • RMユニットの形状の例(基本形)
    図-2 RMユニットの形状の例(基本形)

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    2. 日本建築学会における型枠コンクリートブロック造関連規準の変遷

    コンクリートブロックが量産されるようになったのは第二次世界大戦後であり,建築物に使用するコンクリートブロックの規格が必要とされ,1952年にJISA5406(空洞コンクリートブロック)が制定されている。
    日本建築学会において同じく1952年に『特殊コンクリート構造設計規準・同解説』および『組積造設計規準・同解説』が刊行されている(※3)。
    また,2年後の1954年には建築基準法施行令(以下,令と略記)第62条の2から第62条の8として「補強コンクリートブロック造」が規定されている。
     
    『特殊コンクリート構造設計規準・同解説』(※3)は,8つの規準より構成されており(表-1),2006年まで7次の改定がなされている。

  • 『特殊コンクリート構造設計規準・同解説』(※3)中の各種規準類
    表-1 『特殊コンクリート構造設計規準・同解説』(※3)中の各種規準類

  • 初版である1952年版では,第4条(耐力壁の構造)において,コンクリートブロックの外側シェルを除いた打込みコンクリートの厚さを鉄筋コンクリート壁式構造設計規準第2条および第3条に規定する数値の90%以上で,かつ,壁の全厚は対隣壁間の中心距離の1/50以上と規定している。
    令第62条の4第3項では,補強コンクリートブロック造の耐力壁の厚さは15cm以上と規定しており,これとは異なっているが,「全厚の対隣壁間の中心距離の1/50以上」の規定は同じである。
    壁量15cm/m2以上の規定は,令第62条の4第2項と同じである。
    1979年版および2006年版においては,階に応じて壁厚さと打込みコンクリート部分の厚さを規定しており,最小壁厚さは令第62条の4第3項と同様に15cm以上(最上階から数えて二つ目の階は18cm以上,最上階から数えて三つ目の階は20cm(2006年版は190mm))以上と規定している。
     
    壁量に関しても階に応じて15cm/m2以上(最上階から数えて三つ目の階は18cm/m2以上)と規定されているが,1979年版においては耐力壁の厚さtが標準壁厚t0よりも大きい場合,t/t0の比で割増しした長さを耐力壁の長さとして壁量を算定できる(ただし,壁量の低減は3cm/m2以下)と改定されている。
     
    2006年版においては,壁厚増による壁量低減に加えて,地震地域係数による壁量の低減も可能(最小壁量は,平家建,最上階および最上階から数えて二つ目の階が90mm/m2,最上階から数えて三つ目の階が120mm/m2)としている。

     
     

    3. RM構造の開発

    3-1 開発目標

    鉄筋コンクリート組積造(RM造)は,1984年度から1988年度の5カ年度にわたって実施された「組積造に関する日米共同大型耐震実験研究」(以下,RM構造共同研究と略記)における材料および構造関連の実験研究成果に基づいて開発された構造・構工法である。
    RM構造共同研究が実施される以前の1982年当時における日本建築学会における壁式構造関係規準(※4)~(※6)における代表的な構造規定の階数,耐力壁厚ならびに壁量等の比較を表-2に示す。
    また,令第62条の4第2項において,各階各方向の壁量は15cm/m2以上,令第62条の6第2項においては,「補強コンクリートブロック造の耐力壁,門又はへいの縦筋は,コンクリートブロックの空胴部内で継いではならない。
    ただし,溶接接合その他これと同等以上の強度を有する接合方法による場合においては,この限りでない。」と規定されている。
     
    以上の規定に鑑みて,RM構造の開発目標は下記の7項目に設定された(※7)。
     
    1)高品質の組積ユニット(RMユニット)およびコンクリートを用い,質の高い建築物を建設する。
    2)5階建までの建築物を設計可能とする。
    3)壁量を壁式鉄筋コンクリート造程度とする。
    4)構造特性係数Dsにして0.5以上の保有水平耐力と必要靭性能を確保する。
    5)RC造の臥梁を用いない構造とする。
    6)補強組積造部分での鉄筋の重ね継手を可能とする。
    7)グラウトコンクリートの階高充填を可能とする。
     
    RM構造共同研究を通じて作成された『中層RM構造設計指針(案)』(※7)の階数,耐力壁の厚さ,壁量等を表-2に併せて示す。
    『中層RM構造設計指針(案)』(※7)において,設計法A(許容応力度設計と保有水平耐力の確認を行う設計法)での壁量を『壁式鉄筋コンクリート造設計規準・同解説』(※6)と同様に12cm/m2(文献6)においては,耐力壁の壁厚増により5階建の1階の壁量を規定値15cm/m2から3cm/m2まで低減可としている)とすることを可能としている。

  • RM構造および各種壁式構造関係設計規準における階数・耐力壁厚・耐力壁長・壁量規定
    表-2 RM構造および各種壁式構造関係設計規準における階数・耐力壁厚・耐力壁長・壁量規定

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    3-2 『中層RM構造設計指針・同解説』の作成

    1989年3月をもってRM構造に関する日米共同研究が終了したが,RM構造の実用化および普及を目的として「アールエム建築推進協議会」が設立され,「打込み目地RM構造構造検討書」(※8)を作成するとともに,先に提案された「中層RM構造設計指針(案)」(※7)の見直し作業が行われ,1994年に『中層RM構造設計指針・同解説』(※9)が作成された。
    また,文献(※8)にて検討された打込み目地工法(打込み目地RMユニットを目地モルタルを用いず(1段目の組積には根付けモルタルを使用)接着剤を用いて組積し,空積み状態の組積体の空洞部にグラウト材を充填すると同時に,打込み目地部(図-3)にもグラウト材が充填されRMユニットとグラウト材が一体化される工(構)法)も採り入れた『低層RM構造設計指針・同解説』(※10)が作成されている。
     
    『中層RM構造設計指針・同解説』(※9)においては壁量の規定が削除されているが,その代わりに標準せん断力係数C0≧0.2時(以下,1次設計時という)における耐力壁のせん断応力度(設計法Bにおいては平均せん断応力度)の数値規定が導入されている。

  • 打込み目地RMユニットの打込み目地部
    図-3 打込み目地RMユニットの打込み目地部

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    3-3 RM造関連告示公布および指針の発行

    RM構造建築物は特殊な構造・構法に該当することで建築基準法(以下,法と略記)第38条の規定による建設大臣認定の対象とされていたが,1998年に法第38条が削除された。
    法第38条の削除により告示化に向けての作業が行われ,平成15(2003)年4月28日に国土交通省告示第463号「鉄筋コンクリート組積造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術基準を定める件」(改正平成19年国土交通省告示第614号)として,技術基準の告示が制定され,一般基準化された。
    また,平成13年国土交通省告示第1024号(最終改正平成20年国土交通省告示第1324号)により組積体および打込み目地鉄筋コンクリート組積体の許容応力度と材料強度が定められた。
     
    上記の両告示の公布を受け,RM造の普及とともにRM構造建築物の設計・施工に一般の技術者が携わる機会が増えることが予想されることから,RM造の特徴の正しい理解とともに,その一層の普及を促す上で,構造設計指針および工事標準仕様書のような告示の規定の趣旨や関連技術を解説した技術書として(社)建築研究振興協会より『鉄筋コンクリート組積造(RM造)建築物の構造設計指針・同解説』(※11)および,『鉄筋コンクリート組積造(RM造)工事標準仕様書・同解説』(※12)が2004年12月に刊行されている。

     

    3-4 『鉄筋コンクリート組積造(RM造)建物の構造設計・計算規準(案)・同解説』の作成

    (一社)日本建築学会構造委員会壁式構造運営委員会において,高耐久・高耐震性を有するRM造のさらなる普及を目指して2013年度より鋭意検討を重ねるとともに,近年の研究成果を採り入れた『鉄筋コンクリート組積造(RM造)建物の構造設計・計算規準(案)・同解説』(※13)(以下,RM造設計計算規準案と略記)が2021年3月に刊行された。
    『中層RM構造設計指針・同解説』(※9)と大きく異なるのは設計ルート1が追加された点で,設計法Aは設計ルート3に,設計法Bは設計ルート2に概ね対応している。
    また,設計ルート1と設計ルート2に壁率に相当する耐力壁の水平断面積規定が追加されている(表-3)。
     
    壁量に関する規定は文献(※9)と同様に無いが,壁量に代わる規定としては,耐力壁の水平断面積規定と一次設計時における耐力壁のせん断応力度の数値規定がある。耐力壁の水平断面積規定と一次設計時における耐力壁に生じるせん断応力度の数値規定を満たすに必要な壁量(耐力壁厚を190mmとした場合)の計算結果を表-4に示す。
    表-4より,耐力壁厚190mmの場合の必要計算壁量は,設計ルート1にあっては耐力壁の水平断面積規定,設計ルート2および3にあっては一次設計時における耐力壁に生じるせん断応力度の数値規定により決定していることが分かる。
     
    保有水平耐力の確認を行う設計ルート3においても必要とされる壁量が壁式鉄筋コンクリート造の数値よりも大きくなっているのは,一次設計時における耐力壁のせん断ひび割れ防止の検討に用いるせん断ひび割れ強度をRM組積体の短期許容せん断応力度Sfs(Sfs=0.1Fm/2,m:RM組積体の設計基準強度(N/mm2)で,打込み目地RM組積体の場合はcjFm)によることとしていることによっている。
     

    設計ルート1~設計ルート3の規定を満たすに必要な壁量計算値

    表-4 設計ルート1~設計ルート3の規定を満たすに必要な壁量計算値(mm/m2)



     

    おわりに

    RM造構造の開発経緯とRM造に関する基・規準類の変遷と規定概要を中心に紹介させて頂いた。
    高耐久・高耐震性を有するRM構造建物の設計・施工実績が今後ますます増加していくことが期待される。
    最後にもう一つ『RM建築』の表紙に使用されたRM構造建物の写真を示す(写真-2)。
    本稿がRM構造建物を設計・施工する際の一助となれば幸いである。
     

  • RM構造建築物( RM早稲田、東京都新宿区)
    写真-2 RM構造建築物( RM早稲田、東京都新宿区)

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    【参考文献】
    1) 内田青蔵:材料から見た近代日本建築史その9コンクリートブロック,建築施工単価,2016.12
    2) (社)建築研究振興協会:鉄筋コンクリート組積造工事標準仕様書・同解説,pp.127~135,2004.12
    3) (社)日本建築学会:特殊コンクリート構造設計規準・同解説,組構造設計規準・同解説,1952.11
    4) (社)日本建築学会:特殊コンクリート造関係設計規準・同解説,補強コンクリートブロック造設計規準・同解説,1979.11
    5) (社)日本建築学会:特殊コンクリート造関係設計規準・同解説,型枠コンクリートブロック造設計規準・同解説,1979.11
    6) (社)日本建築学会:特殊コンクリート造関係設計規準・同解説,壁式鉄筋コンクリート造設計規準・同解説,1979.11
    7) 岡田恒男,岡本伸,山崎裕,上之薗隆志:組積造に関する日米共同大型耐震実験研究(45)‐中層RM構造設計指針(その1.基本方針と概要),日本建築学会大会学術講演梗概集,C,構造Ⅱ,pp.785~786,1987.8
    8) アールエム建築推進協議会:打込み目地RM構造 構造検討書,1993.3
    9) アールエム建築推進協議会:中層RM構造設計指針・同解説,1994.1
    10) アールエム建築推進協議会:低層RM構造設計指針・同解説,1997.10
    11) (社)建築研究振興協会:監修 国土交通省国土技術政策総合研究所,(独)建築研究所,編集 日本建築行政会議,(社)建築研究振興協会,鉄筋コンクリート組積造(RM造)建築物の構造設計指針・同解説,平成16年12月,2004.12
    12)( 社)建築研究振興協会:監修 国土交通省国土技術政策総合研究所,(独)建築研究所,編集 日本建築行政会議,(社)建築研究振興協会,鉄筋コンクリート組積造(RM造)工事標準仕様書・同解説,平成16年12月,2004.12
    13)( 一社)日本建築学会:鉄筋コンクリート組積造(RM造)建物の構造設計・計算規準(案)・同解説,2021.3

     
     
     

    INO建築構造研究室
    井上 芳生

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年11月号
    積算資料公表価格版

     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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