- 2022-08-18
- 特集 雪寒対策資機材 | 積算資料公表価格版
はじめに
高速道路における除雪等の雪氷作業は,24時間365日の道路交通確保のため視界不良や夜間等の厳しい作業環境下,熟練オペレータによる高度な技術と経験により行われている(写真-1,2)。
一方で,道路におけるさらなる定時性の確保が強く求められることや,オペレータの高齢化に伴う熟練オペレータ不足により技術伝承が困難な状況となっており,新技術を用いた雪氷作業の支援システムが求められていた。
そこで,非熟練オペレータでも安全・確実に作業ができる環境構築のため,ロータリ除雪車運転支援システム(以下,“本システム”という)の開発を行った。
また,除雪車は一般の乗用車や商業トラック等と異なり特殊車両であり,単に自動車メーカーが開発したシステムを購入すれば運転支援システムが実現できるものではないため,高速道路会社自らが企画立案して開発をリードしていく必要があった。
1.開発内容
準天頂衛星システム『みちびき』からのcm級測位補強信号とあらかじめ作成した高精度地図情報を組み合わせ,運転席に設置したモニターに正確な自車位置を表示し,運転操作を視聴覚的に支援するシステムを開発し実証した(図-1,2)。
さらに本システムをベースに自律走行ならびに除雪装置操作の自動化を目指している(※)1。
本システムにより,積雪でレーンマークが見えない状況や吹雪による視界不良等過酷な条件下でも,走行車線へのはみ出しやガードレール等への接触を回避し,複雑な運転操作を要する除雪作業に有効であることが確認された。
本システムの主な開発内容は以下のとおりである。
1-1 高精度測位方法選定:準天頂衛星システム
視界不良や堆雪している条件下での運用が前提のため,一般的なカメラやミリ波レーダーの利用は困難と判断し,衛星測位システムにより位置情報を取得する方法を選択した。
準天頂衛星の信号は,これまでのGPS信号の受信が不安定であった山間部でも安定して受信が可能であり(図- 3),準天頂衛星システム『みちびき』のcm級測位補強信号に対応し高精度測位が可能な受信機(以下,“受信機”という)を用いることで,道路上の車両等の位置を正確かつ安定して把握できる有効な手段である。
1-2 高精度3次元地図の整備
正確な位置情報検出には高精度な地図情報が必要なことから,路肩外側線や縁石等の道路地物の3次元位置情報を測量にて取得した。
取得した位置情報から縦断方向に1mごとの高精度3次元地図を作成し,本システムに登録した(図-4)。
1-3 受信情報の補正
受信機で得られる測位情報は“受信した時点”における“アンテナ位置”の情報であり,地殻変動への対応が必要なことや,路面傾斜がアンテナに与える影響も考慮する必要があることから,本システムを高精度に運用するために以下の補正を行った。
a)地殻変動補正
地殻の経年誤差を解消するため,国土地理院で公表されている地殻変動補正パラメータファイルITRF20142)(4回/年更新)を用いて,受信時点(今期)の位置から地図の元期(1997.1.1)の位置へ変換し,地図との誤差を最小限とした(図-5)。
地殻変動補正のイメージは,5kmメッシュごとに設定されている補正値を用いて受信情報を補正し,高精度MAPに対応した測位座標に変換する。
参考までに,北海道支社管内路線における3D地殻変動量は元期から2020年10月までで大きいところで130cm程度ある。
b)傾斜補正
車体の傾斜によるズレをIMU(ジャイロセンサと加速度センサを用いて進行方向や姿勢を検知する機器)により傾き角度を取得して,アンテナ位置取得座標に対し3次元座標の回転計算を行い,路面位置座標に変換することで地図に対し正確な自車位置を反映させた(図-6)。
c)進行方向補正
当初,本システムではアンテナ1つでの運用を想定し,受信機の走行軌跡を繋げて進行方向を決定する方法を採用していたため,受信機固有の誤差から特に微低速時には軌跡間隔が狭くなることで進行方向誤差が大きくなる課題が生じた。
対応策として,受信機の走行軌跡の角度変化量が大きい場合には,ジャイロセンサの角度変化量を正として進行方向を決定することで,進行方向の精度を全車速域において向上させた(図-7)。
1-4 モニター表示・警告内容
実際に除雪作業するオペレータへのヒアリング結果から必要情報を整理し,モニター表示を改良し(図-8),警告音を出力させた。
①の部分には外側線からの余裕幅を表示し,はみ出した場合は赤色で表示し警告音が鳴る。
②の部分には排水マスや非常電話などのシューター等の除雪装置操作に関わる注意情報を10m手前から表示する。
2. 有用性の検証
2020 年10月における横断方向の誤差精度は,夕張テストコース(以下,“夕張TC”という)にて行った実験の結果±13cm※ 1であり,当支社で外側線幅(20cm)に収まるように設定したシステム全体の誤差目標値±20cmを満たすことから,実用可能と評価した(図-9)。
(※)1 実験条件:[ 日 付]2020年10月15日
[コース]直線~曲率半径R100
[回 数]2周結果
3. 自動運転化への展開
本システムによる正確な位置情報をベースに次のステップとしてロータリ除雪車の自動化に向けて,自律走行(オペレータが乗車した状態でステアリングやアクセルに触れずに自動で走行操舵する状態)ならびに除雪装置操作の自動化(図-10)の開発を車両メーカーと連携して進めている。
2020年9月に夕張TCにて自律走行を確認し,11月のマスコミ公開をはじめ関係機関に現場公開をした(写真- 3)。
また,2021年4月には本線上での自律走行を確認し,11月に本線上にてマスコミ公開を行った(写真- 4)。
さらに,2022 年1月には夕張TCにて約70cmの堆雪状況でほぼ±20cm以内の誤差で自律走行出来ることを確認した(写真- 5)。
引き続き,自律走行や除雪装置操作の自動化の精度向上を進め,2022年度の完成を目指す。
4. おわりに
本システムの開発により,除雪作業の省力化,効率化,安全性の向上が図られ,冬の高速道路の「安全安心」に繋がる。
さらには,本システムの実用拡大はもとより,道路維持管理分野等での新たな衛星利用の展開が期待でき,労働者不足や熟練オペレータの高齢化,また,現在のコロナ禍での作業環境等の課題への対応が可能になる。
本システムを含むNEXCO東日本が手掛ける雪氷対策高度化システムを「ASNOS(アスノス)」※2と総称し(図- 11),今後も開発に取り組んでいく。
※2 Advanced/Autonomous Snow and ice control OperationSystemの略で,「明日(未来)の雪氷対策高度化システム」を称する。
参照文献
(※) 1 ICHIKAWA, A. et al.(2022)The development of autonomous
snow blowers using the quasi-zenith satellite system on
expressway in Japan, PIARC XVI World winter service and
road resilience, Calgary
(※)2 国土地理院:定常時地殻変動補正システムPOS2JGD計算サイト,
https://positions.gsi.go.jp/cdcs/, 2021.
【出典】
- 分析・予測システム【AIによる音響データを用いた雨天時浸入水検知技術 下水道雨天時浸入水検知システム】|株式会社建設技術研究所
- 貯留型浸透施設【コンクリート地下貯留槽 アクアポンドL】|株式会社ヤマウ
- 施工管理【簡易型RI水分計 WARP-mini(ワープミニ)】|ソイルアンドロックエンジニアリング株式会社
- 技能評価システム【DRONETECH(ドローンテック)】|日本AIロボット安全管理機構(JARSMO)
- 検査・診断機器【AI橋梁診断支援システム Dr.Bridge®】|株式会社日本海コンサルタント
- 構造物調査【AIや三次元点群モデルを活用した港湾施設の定期点検支援技術】|三信建材工業株式会社
- 埋め戻し用材【流動化処理土 KFソイル(Kikuno Flow Soil) 低炭素型高流動コンクリート製品】|株式会社キクノ
- 試験・測定機器【積雪深断面測定装置 SNOWLINE】|タマヤ計測システム株式会社
- その他災害対策資材【KYK 住宅用凍結防止剤 凍(コオ)ランブルー】|古河薬品工業株式会社
- 融雪器具【無散水消雪システム 地下水還元方式】|日本地下水開発株式会社
- 特殊舗装工【多機能型排水性舗装(縦溝粗面型ハイブリッド舗装)フル・ファンクション・ペーブ(FFP)】|株式会社ガイアート
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- 除雪車【ロータリ除雪車 HTR308A】|株式会社NICHIJO
- さく井用集水管【KVSストレーナ/W.KVN ストレーナ】|株式会社興和
- 融雪器具【融雪システム オンリーワン/オンリーワン タイプCG /オンリーワン タイプF】|雪国科学株式会社
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最終更新日:2023-06-28
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