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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > 水道整備・管理行政の移管に向けて

はじめに

「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律」(令和5年法律第36号)が本年5月26日に公布され、令和6年度に厚生労働省の所管する水道整備・管理行政の国土交通省・環境省への移管が決まりました。
本稿では、移管の決定に至るまでの経緯、背景や令和6年度4月に向けた組織体制整備等の取組の状況について紹介します。
 
 

1. 水道整備・管理行政移管の背景

明治時代、コレラ等の流行を背景に上下水道の整備の必要性が高まり、水道条例や旧下水道法等の関連法制が制定されて以来、内務省がこれらの法制に基づき上下水道行政を実施していました。
内務省が廃止された後、昭和30年代に入って上下水道の所管をめぐる水行政の混乱を解消するため、昭和32年に水道は厚生省、工業用水道は通商産業省、下水道管きょは建設省、終末処理場は厚生省(のちに建設省へ)の所管とする閣議決定がなされました。
これを契機として水道法および現行の下水道法が制定され、以降、厚生省(後の厚生労働省)が水道法等に基づき水道行政を、建設省(後の国土交通省)が下水道法等に基づき下水道行政を実施してきました。
 
令和4年6月17日、新型コロナウイルス感染症対策本部は「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」の中で、厚生労働省における平時からの感染症対応能力を強化するため、
「感染症対策部(仮称)」を設けることと合わせて、厚生労働省の所管する生活衛生関係の組織について、一部業務の他府省庁への移管を含めた所要の見直しを行うことを決定いたしました。
 
上記決定に基づく具体的な対応として、新型コロナウイルス感染症対策本部は同年9月2日、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策(概要)」(図-1)を決定しました。

図-1 新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策(概要)
図-1 新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策(概要)

この中で、感染症対応能力を強化するための厚生労働省の組織の見直しの一環として、食品衛生基準行政を厚生労働省から消費者庁へ、水道整備・管理行政を厚生労働省から国土交通省(水質基準策定等については環境省)へ移管する方針が定められました。
水道整備・管理行政については、現在、水道事業の経営基盤強化、老朽化や耐震化への対応、災害発生時における早急な復旧支援等の課題を抱えています。
これらの問題に対し、国土交通省が有する施設整備や下水道運営、災害対応に関する能力・知見や、層の厚い地方組織を活用し、水道整備・管理行政を一元的に担当することで、そのパフォーマンスの一層の向上を図る観点から、国土交通省が水道整備・管理行政を所管することとされました。
また、これらの移管のため、次期通常国会に必要な法律案を提出し、令和6年度の施行を目指すこととされました。
 
この決定に基づき、関係省庁で法律案の検討を行い、「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律案」が令和5年3月7日に国会に提出されました。
その後、本法案は国会で審議がなされ、4月26日に衆議院、5月18日に参議院で可決されて成立し、5月26日に公布、令和6年4月1日から施行することとなりました(図-2)。
なお、衆参両院の厚生労働委員会において、水道・下水道事業の施設整備に係る必要な予算を確保すること、水道・下水道事業の基盤強化に向け、国や事業者が事業運営等に必要な組織、人員と専門性を確保できるよう、必要な措置を講ずること等の附帯決議がなされました。

図-2 生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律の概要
図-2 生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律の概要

 
 

2. 法律の内容

本法律は食品衛生行政および水道整備・管理行政をまとめて「生活衛生等関係行政」とし、これらの移管等により行政の「機能強化」を図ることを目的としています。
 
この内、水道整備・管理行政については以下の改正が行われました。
 

2-1 水道法等の改正

水道整備・管理行政の内、水道に関する水質基準の策定等の水質または衛生に関する事務については、環境の保全としての公衆衛生の向上および増進に関する専門的な知見等を活用する観点から、厚生労働大臣から環境大臣に移管されることとなりました。
 
また、水道整備・管理行政の内、水道基盤の強化のための基本方針の策定、水道事業等の認可・改善指示・報告徴収・立入検査等の事務について、社会資本の整合的な整備に関する知見等の活用による水道の基盤の強化等の観点から、厚生労働大臣から国土交通大臣に移管されることとなりました。
加えて、水道整備・管理行政については、これまでは全て厚生労働省本省が事務を行っていましたが、当該事務の一部を国土交通省地方整備局長または北海道開発局長に委任できることとされました。
 
さらに、今回の改正により、水道整備・管理行政の所管が国土交通省と環境省に分かれることになりますが、水道整備・管理行政の円滑な実施に向け、国土交通大臣および環境大臣は、水道に起因する衛生上の危害の発生防止のため、相互の密接な連携の確保に努めることとするともに、国土交通大臣および環境大臣は、省令の制定等に当たり、互いに意見を聴くこととされました。
 

2-2 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法および社会資本整備重点計画法の改正

今般、水道事業等における災害対応等の機能強化を図るため、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法に基づく国庫負担の対象となる施設に水道が追加されました。
これにより、水道についても河川、道路、下水道等と同率の国庫負担がなされるようになり、また、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律に基づく激甚災害の際の財政援助の対象にもなりました。
 
加えて、社会資本整備重点計画法が改正され、水道についても、下水道等の国土交通分野の各種インフラと相互に連携を図りながら、重点的、効果的かつ効率的な整備等を促進し、その機能強化を図るため、社会資本整備重点計画の対象事業として追加されました。
 

2-3 厚生労働省設置法、国土交通省設置法、環境省設置法の改正

2-1. の水道整備・管理行政の移管に伴い、厚生労働省の所掌事務から水道を削除し、国土交通省および環境省の所掌事務に水道を加える等の所要の見直しが行われました。
また、国土交通省地方整備局および北海道開発局(以下、「地方整備局等」という。)の事務に関する規定の整備が行われました。
 
 

3. 水道整備・管理行政の移管に向けた取り組みについて

3-1 移管に向けた体制づくり

本法案の成立を受け、水道整備・管理行政の円滑な移管のために、国土交通本省には「水道整備・管理行政移管準備チーム」を、地方整備局等には「水道整備・管理行政移管準備室」を設置しました(図-3)。
併せて、同チームに水道整備・管理行政移管に関する、各方面からの問い合わせ窓口を設置しました。
 
移管後の体制整備については、下水道部の現行の2課1官体制に水道を担当する課が加わる形で、シナジー効果を発揮できるように組織を整備していくことを考えており、水道・下水道担当の局長級のポストを設置し、体制強化を図っていきたいと考えています。
また、地方整備局等におき、地方整備局等においても上下水道一体の組織を構築し、水道事業者や都道府県との窓口を設置することとしております。
移管後、地方整備局等において円滑に業務が行えるよう、会計・災害事故対応・各種窓口対応に関して上記準備室員を対象とした研修を進めています。
 
移管に先立ち、水道の災害対応について、厚生労働省と連携して暫定的な応援ルールを定める等の強化を図っています(図-4)。
災害対応にあたっては、普段から関係者との関係構築が重要であり、水道事業者や都道府県はもとより、給水支援等を実施する日本水道協会との関係構築が重要と考えています。
このため、国土交通省本省および地方整備局等において、水道事業者や都道府県、日本水道協会の本部、支部との関係構築を進めています。
 
また、水道水質基準については環境省が担うことになりますが、有機フッ素化合物(PFAS)に関する問題等に関して、二省間の連携が円滑に行えるよう準備を進めています。
 
加えて、移管後において、水道事業者や都道府県にかかる水道関係の手続き、窓口等が一部変更になるため、厚生労働省が主催する水道事業者等を対象とした「令和5年度水道整備・管理行政に関する説明会」に環境省とともに参加し、本省・地方整備局等の業務の分担や移管後の事務手続等必要な情報提供を行う等、移管に向けた対応を進めております。

図-3 水道整備・管理行政移管準備チーム設置式
図-3 水道整備・管理行政移管準備チーム設置式
図-4 暫定版の応援ルールに基づく給水支援(山口県美祢市)
図-4 暫定版の応援ルールに基づく給水支援
(山口県美祢市)

 
 

3-2 水道整備・管理行政の機能の強化および上下水道一体のシナジー効果の発現

今回の行政移管においては、国土交通省が有する下水道等のインフラ管理・整備の知見や地方整備局等の現場力を活用することで、水道の機能強化を図ることが求められており、水道整備・管理行政の機能の強化および上下水道一体のシナジー効果が発現される取組を進めていきたいと考えております。
具体的には、令和6年度の予算概算要求において、次のような制度拡充等を要求しています。
 
簡易水道の管路施設の耐震化等を支援していく制度の拡充や下水道で行ってきた「B-DASHプロジェクト」(下水道革新的技術実証事業)の水道版の創設を要求する等、水道整備・管理行政の機能強化を図っていきたいと考えています。
 
さらに、上下水道一体の科学研究費制度や新たな官民連携方式「ウォーターPPP」を推進していくための上下水道基盤強化等補助金の創設を要求する等、水道だけではなく下水道も含めたシナジー効果が発現させるための予算制度を構築していきたいと考えています(図-5)。

図-5 令和6年度予算概算要求 上下水道一体の取組の推進
図-5 令和6年度予算概算要求 上下水道一体の取組の推進

 
このような予算制度も活用しながら、新たな技術開発や上下水道双方の優れた技術を互いに活用することで、老朽化対策等の課題に効果的に対応していきたいと考えています。
また、海外において、上下水道両方の技術支援を相手国から求められるケースもあり、今後は、上下水道一体となった効率的な水ビジネス国際展開を実現していきたいと考えております。
 
 

おわりに

「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与する」という水道法第一条に掲げる目的を将来にわたって実現するため水道の機能強化を図るとともに、上下水道一体のシナジー効果を発現させるという強い決意のもと準備を進めています。
円滑な移管を実現し、「国土交通省に移管して良かった」と言われるよう引き続き取り組んでまいります。
 


※本稿は、2023年11月27日に執筆されたものです
 
 
 

国土交通省 水道整備・管理行政移管準備チーム事務局
岩渕 光生

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年1月号

最終更新日:2023-12-22

 

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