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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 土木インフラの維持管理 > 持続可能なインフラメンテナンスの実現に向けて~地域インフラ群再生戦略マネジメントの推進~

はじめに

「社会資本メンテナンス元年」から10年目を迎えた2022年、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会において、これまでの取組みのレビュー及び、今後のメンテナンスのあり方についてとりまとめられ、提言として公表された。
本稿では、本提言の内容と関連する国土交通省におけるインフラ老朽化対策について主な取組みを紹介する。
 
 

1. インフラメンテナンスを取り巻く現状

インフラは、我が国における「安全・安心の確保」、「持続可能な地域社会の形成」、「経済成長の実現」の基盤となるものである。
今後、建設から50年以上経過するインフラの割合が加速度的に増加する見込みである中、中長期的に我が国の生活や社会経済活動の礎とし続けるため、インフラの維持管理・更新を計画的に進め、持続可能なインフラメンテナンスを実現することが極めて重要である。
 
2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故が発生し、国土交通省では2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、メンテナンスサイクルの確立に始まり、産学官民が一丸となってメンテナンスに取り組むインフラメンテナンス国民会議の設立など、さまざまな取組みを行ってきた(図- 1)。

図-1 これまでの10年間の取組み
図-1 これまでの10年間の取組み

 
2014年に「インフラ長寿命化計画(行動計画)」(2014〜2020年度)を策定し、これに基づき、インフラの老朽化対策に係る取組みを推進してきた。
また、当該計画は2021年6月に、「予防保全」への本格転換や新技術の活用、インフラの集約・再編の取組み等を盛り込んだ内容に改定(2021〜 2025年度)したところである。
 
そして、「社会資本メンテナンス元年」から10年目を迎えた2022年度には、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会において、これまでの老朽化対策の進捗状況や地方公共団体の動向等を把握して、これまでの取組みのレビューを行うとともに、今後のメンテナンスのあり方に関する提言がとりまとめられ、公表された。
 
本稿では、国土交通省がこれまで行ってきた主な取組みを交えつつ、インフラメンテナンスの現況と見通しについて説明するとともに、今後のインフラメンテナンスのあり方に関する提言『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」〜インフラメンテナンス第2フェーズへ〜』を踏まえた施策を紹介する。
 
 

2. インフラメンテナンスの現況と見通し

2-1 地方公共団体の抱える諸課題

高度成長期以降に整備された道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等について、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に増加している状況にある。
 
そのような中で、多くのインフラを維持管理している地方公共団体、とりわけ、小規模な市町村などに目を向けると、これまでの取組みで施設の点検が一巡し、施設の現況が把握できた一方で、土木職員の減少や十分な予算確保が困難という課題が存在する。
例えば、市町村における土木部門の職員数の減少割合は約14%であり、市町村全体の職員数の減少割合よりも大きく、技術系職員が5人以下の市町村が全体の半分を占めている状況である(図- 2)。

図-2 市町村における職員数の推移
図-2 市町村における職員数の推移
図-3 市町村の土木費の推移
図-3 市町村の土木費の推移

 
さらに、市町村の土木費は、ピーク時の1993年の約11.5兆円から、2011年度までの間で約半分の6兆円に減少している(図- 3)。
このような中で、措置が必要な施設数に対して、講ずべき補修・修繕が追い付いておらず、依然として事後保全段階にある施設が多数存在している。
 

2-2 予防保全への転換の必要性

2018年11月、国土交通省は、経済財政諮問会議のワーキンググループにおいて、所管する分野のインフラについて、30年後までの維持管理・更新費の推計結果を示した。
インフラの維持管理・更新について、不具合が生じてから対策を講じる「事後保全」から、不具合が生じる前に対策を講じる「予防保全」へ移行することにより、30年後の維持管理・更新費が約5割縮減される見込みとなった(図- 4)。

図-4 「予防保全」の推計と「事後保全」の試算との比較(長寿命化等による効率化の効果)
図-4 「予防保全」の推計と「事後保全」の試算との比較(長寿命化等による効率化の効果)

 
この結果からも明らかなとおり、今後、予防保全への転換を進めることにより費用の縮減・平準化を図ることで、持続的・効率的なインフラメンテナンスを推進することが必要である。
 

2-3予防保全への転換の状況

点検を法定化し、施設点検が一巡したことで、インフラの老朽化の全体像が把握できた。
例えば、道路橋については、2014年から各道路管理者へ、5年に1回の頻度で点検を実施することが義務づけられており、2022年度末時点で措置が必要な施設(いわゆる「事後保全」段階にある施設)は58,888橋であった。
 
そのうちの多くは、地方公共団体が管理しており、いまだ約42,000橋の措置が完了していない状況で、予防保全に本格的に転換するには、まずはこれらに対する措置を早期に講じる必要がある。
 
また、毎年約7,000橋の措置が完了するものの、新たに事後保全段階に移行する橋梁が約5,000橋発生するため、1年間で約2,000橋しか措置が完了しない。
従って、これまでの予算水準では予防保全への移行までに約20年かかるという状況である。
 
このように、インフラ老朽化対策は「待ったなし」の課題であり、2020年12月11日に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための5カ年加速化対策」に基づき、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けて、早期対応が必要な施設への集中的な老朽化対策を実施している。
 
 

3. 「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の推進

3-1 「地域インフラ群再生戦略マネジメント」とは

地方公共団体における財政面・体制面の課題を踏まえ、国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会の技術部会に設置された社会資本メンテナンス戦略小委員会において、これまでの老朽化対策の進捗状況や地方公共団体の動向等を把握して、これまでの取組みのレビューとともに、今後のメンテナンスのあり方を示した提言として、2022年12月2日『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」〜インフラメンテナンス第2フェーズへ〜』がとりまとめられ、公表された。
 
提言では、これから取り組むべき施策の方針として、市区町村における財政面・体制面の課題を踏まえ、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」(以下、「群マネ」という)の考え方が示され、その推進が求められている(図- 5)。
これは、既存の行政区域に拘らない広域的な視点で、道路・公園・下水道といった複数・多分野のインフラを「群」として捉える。
さらに更新や集約・再編・新設も組み合わせた検討により、効率的・効果的にマネジメントし地域に必要なインフラの機能・性能を維持するものであり、市区町村が抱える課題を踏まえつつ適確にインフラ機能を発揮させるためには、個別施設のメンテナンスのみならず「群マネ」の考え方が重要となってくる。

図-5 群マネのイメージ
図-5 群マネのイメージ

 
具体的には、計画策定プロセス及び実施プロセスに分けて取組みを進めていくこととしている。
 
〈計画策定プロセス〉(図- 6)
①地域特性や地方公共団体間の機能的なつながりなどを踏まえ、市区町村の既存の行政区域に拘らない「地域」を設定し、その「地域」内に存在する複数・多分野のインフラを「群」としてまとめて捉える。②地域の将来像に基づき、インフラ「群」の将来的に必要な機能(維持すべき機能/新たに加えるべき機能/役割を果たした機能)を検討。
③必要な機能を踏まえ、個別施設の維持/補修・修繕、更新、集約・再編/新設等に関する計画を策定。

図-6 群マネの推進イメージ〈 計画策定プロセス〉
図-6 群マネの推進イメージ〈 計画策定プロセス〉

 
〈実施プロセス〉(図- 7)
①業務を難易度、求められる能力等に応じて類型化。
②一定の技術力が必要な点検・修繕等は、広域・複数・多分野の業務の包括化により技術力を有する事業者を含む事業者連携により対応。
③日常的な維持管理等は、必要に応じ、地元建設会社等で組織する共同企業体(JV)等を 活用しつつ、地域の実情に精通し、現場へのアクセス性に優れた地元事業者により対応。

図-7 群マネの推進イメージ〈実施プロセス〉
図-7 群マネの推進イメージ〈実施プロセス〉

 
この「群マネ」の考え方に基づく取組みを推進することで、事業者及び市区町村がそれぞれ機能的、空間的及び時間的にマネジメントの統合を図り、持続可能なインフラメンテナンスを実現するものであり、多様な主体による「総力戦」での実施体制を構築した上で、計画的に取組みを進める必要がある。
「群マネ」の取組みを進めていくため、2023年5 〜6月にかけて、全国9ブロックで、地方公共団体等職員(都道府県・市区町村等)向けの「広域的・戦略的インフラマネジメントセミナー」を開催した。
 
また、同年8月には、「群マネ」の計画策定について議論する「地域インフラ群再生戦略マネジメント計画策定手法検討会(群マネ計画検討会)」及び「群マネ」の維持管理等の業務の実施について議論する「地域インフラ群再生戦略マネジメント実施手法検討会(群マネ実施検討会)」の2つの検討会を立ち上げた。
さらに同年12月1日には、先行的に課題解決に取り組んでいく地方公共団体として11件40自治体を、群マネのモデル地域として選定した。
今後「群マネ計画検討会」及び「群マネ実施検討会」の助言を得ながら、「群マネ」の計画策定、実施の支援を行い、モデル地域の検討により得た知見等を踏まえ、全国的な展開に結びつけたいと考えている(図- 8)。

図-8 群マネモデル地域(11件・40地方公共団体)
図-8 群マネモデル地域(11件・40地方公共団体)

 

3-2 包括的民間委託の導入促進に向けて

国土交通省では、市区町村における課題を踏まえ、業務を受託した民間事業者が創意工夫やノウハウを活用し、より効率的・効果的に業務を実施できるよう、巡回・維持など複数の業務や道路・公園など複数の施設をまとめて、地元建設会社等で組織する共同企業体(JV)や事業協同組合などに委託する「包括的民間委託」の導入促進を図っており、前述の「群マネ」を推進していく上でも重要な手法の一つと位置付けられている(図- 9)。

図-9 包括的民間委託の概要
図-9 包括的民間委託の概要

 
包括的民間委託の導入促進を図るため、国土交通省では、モデルとなる地方公共団体への導入支援を通じて得た知見や先行事例等を参考にしつつ、2023年3月に、「インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き」をとりまとめた(図- 10)。
 
本手引きでは、包括的民間委託の導入プロセスについて導入可能性調査段階、業務発注段階、業務実施段階の3段階に分けて記載している(図- 11)。

図-10 包括的民間委託導入の手引きの構成
図-10 包括的民間委託導入の手引きの構成
図-11 包括的民間委託の導入プロセス
図-11 包括的民間委託の導入プロセス

 
①導入可能性調査段階
まずは人口や予算、市勢等の自治体の現状や管理しているインフラの現状、維持管理に関する課題意識等から、包括的民間委託の導入の方向性や委託する業務の内容や体制等、おおまかな導入内容を検討する。
 
具体的には、行政ニーズを基に、施設分野として道路や公園など、どのようなインフラを対象とするか、巡回、清掃、修繕など、どのような業務分野を対象とするか、対象エリアや発注方式等を検討することとなる。
検討においては、従来の業務のやり方から大きく方式を変えることになるため、担当部署だけではなく、地方公共団体幹部の理解を得てトップダウンで検討を進めていくことが重要となる。
 
行政内部での検討と並行し、包括委託を担うこととなる民間事業者の意識を高め、意向を確認することも重要となる。
地域の建設事業者等を対象として、包括的民間委託に対する説明会・意見交換会等や、アンケート・ヒアリング等を通じて、地域の建設事業者等の包括的民間委託に対する理解促進を図るとともに、自治体が目指す将来像や業界への期待等を示すことで受発注者間の認識・意識のすり合わせを行う。
 
このように、自治体内部での検討だけでなく地域の事業者等の意見も踏まえ、包括的民間委託の導入を検討することで、地域にとって望ましく、事業者が参加可能で、かつメリットのある業務実施を目指している。
 
②業務発注段階
市場調査等によって得られた意見を踏まえ、具体的な委託内容案を検討し、併せて事業者の選定方法や受発注者間のリスク分担、企業の参加要件等を検討し、発注図書の作成を行う。
 
ここでは、民間事業者等の意向も踏まえつつ、プロポーザル方式などの発注方式や、性能規定など民間事業者の創意工夫を引き出す仕組みを適切に盛り込んでいくことが重要である。
 
③業務実施段階
適切な業務の履行がなされているかモニタリングを行い、当初想定していた効果が発現しているか、効果の検証を行うことが重要である。
 
業務範囲等の拡大を行う場合には、利用者である住民、包括化業務を受託した事業者、発注者である所管部署等、さまざまな主体の意見を踏まえながら、より効果の発揮できる包括化の範囲を検討することが重要となる。
対象業務や対象インフラ、対象エリア、事業者裁量範囲の拡大や、近隣市町村同士で連携する広域連携の実施などを目指すことを想定する。
 
また、手引きにはすでに包括的民間委託を導入した実績のある東京都府中市等の事例を掲載している。
これらの事例では、それぞれの行政ニーズに基づき、契約内容等を工夫しつつ包括委託を導入・拡大しており、自治体ごとの特性に応じた発注内容や方法を検討することが必要である。
 

3-3 新技術の導入促進に向けて

国土交通省ではこれまで、インフラメンテナンス分野においても、新技術の導入により作業の省人化・効率化を図ることが可能であることから、新技術の導入促進に向けた取組みを行ってきた。
一方で新技術の導入にあたっては、導入コストや内部調整段階での技術に対する有効性の判断等が課題となっている。
 
特に新技術の活用に不慣れな小規模自治体等にとっては、新技術の導入のノウハウが不足していると考えられる。
そこで、2018年度から「官民研究投資拡大プログラム(PRISM)」を活用し、自治体におけるモデルケースの実施を通じて、「インフラ維持管理における新技術導入の手引き(案)Ver 0.1」を作成、2021年3月に公表したところである。
 
また、新技術の活用を促進すべく、2021年度から、コスト縮減や省力化の見込まれる新技術等を活用する事業に対して、補助金の優先支援の対象とするなど、財政的インセンティブの仕組みを導入している。
 
更なる自治体支援のため、「研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)」を活用し、新技術の活用促進・技術者育成の体制構築を図るため、専門家によるハンズオン支援を行う(図- 12)。
本取組みを通じて、地方公共団体における新技術導入を検討しやすい環境・体制の構築と新技術導入に求められる一連の技術力を有する職員の育成に関する手法を確立・一般化することで、地方公共団体における新技術の活用促進を図ることとしている。
また、2023年10月に支援を受けるモデル自治体を13自治体選定した(表- 1)。
今後、選定したモデル自治体に対してアドバイザーによる支援を実施していく予定である。

図-12 新技術ハンズオン支援のイメージ
図-12 新技術ハンズオン支援のイメージ
表-1 新技術ハンズオンモデル自治体と支援内容
表-1 新技術ハンズオンモデル自治体と支援内容

 
 

おわりに

広域・複数・多分野のインフラを群として捉えてマネジメントする「群マネ」の考え方については、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2023
(骨太方針2023)」(2023年6月16日閣議決定)において「各地域において広域的・戦略的なインフラマネジメントの取組みが進むよう、具体的な手法の検討を進める」と示されるなど、政府としても重要な取組みの一つに位置付けられている。
 
これらの動きも踏まえ、今後、「群マネ」の考え方に基づくインフラマネジメントの取組みを具体化していくとともに、それらを進めて行く上で重要となる包括的民間委託の活用、新技術の導入などメンテナンスの効率化・高度化に向けた取組みを着実に進めていかなければならない。
 
国土交通省としても笹子トンネルの事故を受けて関係者が共有した危機感と緊張感を保ちながら、決意を新たにインフラメンテナンスに関わるあらゆる主体と協調し、持続可能なインフラメンテナンスの実現に向けて歩みを進めてまいりたい。
 
 

【参考文献】

1)社会資本メンテナンス戦略小委員会ホームページ
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s201_menntenannsu01.html
2)インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/houkatsu_tebiki.pdf

3)インフラ維持管理における新技術導入の手引き(案)~新技術導入は難しくない~
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/shingijutsu_tebiki.pdf

4) 群マネ計画検討会・群マネ実施検討会HP
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/03_02_06.html
5) 群マネモデル地域への支援HP
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/03_02_07.html

 
 
 

国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課 調整官
原田 駿平

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年2月号

最終更新日:2024-01-22

 

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