- 2023-10-24
- 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 | 積算資料公表価格版
はじめに
現在、地球レベルの環境破壊が顕在化し、環境の保全と経済活動とが調和した循環型社会システムの構築が求められており、エネルギーや資源の効率的な利用、再生可能エネルギーへのシフト等が進められている。
このような中で光触媒は、太陽光や既設の室内照明などの自然エネルギーや既存エネルギーを利用して効果を発揮することから環境に優しい技術であると注目されている。
光触媒応用製品は1990年代から市場投入開始され、建築分野をはじめ繊維や空気清浄機など多岐にわたっている(表-1)。
今回、光触媒の効果や製品化状況、さらに確かな効果で安心して利用するための製品認証制度について紹介する。
1. 光触媒の効果
光触媒は1972年に光(紫外線)で水を分解して水素や酸素を発生させる本多・藤嶋効果1)の発見により着目され、研究開発が進んだ日本発の技術である。
その後、太陽光や雨といった自然エネルギーを利用し汚染物質など有機物の分解や、水になじみやすくなる超親水性の発見2)(図-1)が続き応用分野が拡大していった。
光触媒はこうした反応で自身が変化したり、消費されたりすることがなく、反応を促進することができる。
光触媒の効果として、汚染された空気の浄化や建築外装の汚れを分解し、雨で洗い流してきれいに保つセルフクリーニング効果(図-2)が知られている。
建築外装や道路資材に応用することで「環境浄化」や「美観維持」に貢献している。
また近年、紫外線がほとんどない室内空間でも効果を発揮する可視光応答型光触媒が開発され、内装材やコーティング材として応用が進んでいる。
室内でも、例えばたばこ臭の原因物質であるアセトアルデヒドやシックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドを分解し、空気を浄化する内装建材や生活用品、空気浄化装置といった製品に応用されている。
2020年9月には社会的に大きな問題となった新型コロナウイルスに対して、可視光応答型光触媒によりウイルスが抑制されることが研究グループ 3)により報告4)された(図-3)。

写真①:コントロール。
新型コロナウイルスが細胞に感染し、破壊された箇所が白く見える。
(ウイルスが不活化していない)
写真②:可視光応答形光触媒材料。
新型コロナウイルスによる細胞の効果破壊は見られない。
(ウイルスが不活化している)
図-3 新型コロナウイルスの不活化実験4)
このように研究機関の実験データが公開され、抗ウイルス効果が示されているが、製品化には製品としてのウイルスへの実効性検証が必要である。
現在、可視光応答型光触媒の内装建材やコーティング材への応用が進んでおり、室内空間に応用することで、病気や臭いの原因である細菌の増殖抑制や抗ウイルス効果を発揮し、「生活空間のきれい」への貢献が期待されている。
2. 光触媒製品の信頼性確保のために
光触媒製品を安心して利用していただくためには製品の信頼性確保が重要である。
そのためには、確かな光触媒性能を有することおよび安全性の確認が必要である。
前者について、製品が市場投入され始めた1990年代は光触媒の性能評価に統一した評価方法は無く、各社独自で評価を実施していた。
このため光触媒性能の優劣判断が難しい状況であった。
このような中、一般社団法人日本ファインセラミックス協会が事務局となって光触媒性能を評価するJIS試験法の制定が進められ、国際的にはISO 制定が推進されたことで(表-2)、同じものさしでの評価が可能となった。
また2005年には光触媒製品の健全な市場形成と普及を目指し光触媒工業会が発足し、JIS試験方法での評価の下、一定の光触媒性能を有し、安全性が確認された製品を認証する製品認証制度に取り組んでいる。
3. 製品性能規格について
光触媒工業会ではJIS試験方法に準拠した製品性能規格(表-3)を定めるために以下のようなステップを進めている。
1) JI S試験法に準拠した製品の性能規格について検証、議論し性能規格原案を作成する。
2) 次に、工業会会員に対し意見を募集するパブリックコメントを実施し、意見反映を検討する。
3) 1)2)を経て光触媒工業会内部で策定した製品性能規格(案)について第三者委員会(経済産業省、有識者、消費者団体等が参加)で意見を徴集し、問題があれば1)に差し戻す。
このサイクルを繰り返した後、第三者委員会で賛同が得られれば、正式な製品性能規格として会員等へ公表する。
製品性能規格は、①試験方法 、② 性能評価試験機関 、③ 性能判定基準、④ 効果の持続性、⑤安全性、の5項目で構成されており、以下のように定められている。
①試験方法:試験法のJIS番号を規定。
②性能評価試験機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のJNLA登録試験機関を原則とするが、技能試験の環境が整備されるまでの期間は、例外として光触媒工業会推奨機関の試験報告書で代用可能。
③性能判定基準:表-3に示す基準を規定。
④効果の持続性:申請者がカタログ等でうたう性能持続期間に見合う促進試験または実期間暴露後の試験体を用いてJIS試験法で評価し、初期だけでなく性能持続期間後の条件でも性能判定基準以上の性能であること。
⑤安全性:安全性評価の保持および消費者等への開示。
安全性評価は急性経口毒性、皮膚一次刺激性、変異原性を必須としているが、皮膚や食品に直接、長時間接触する使用が常態と考えられる製品については、さらに皮膚感作性についても評価することが必要。
4. 認証審査・認証登録について
光触媒工業会では2009年2月に抗菌性能およびセルフクリーニング性能の認証審査を開始し、現在では7種の性能分類について認証審査を実施している(表-3)。
認証審査は、会員より申請された試験報告書等を認証規定に基づき実施し、認証登録された製品は光触媒工業会のホームページで公開している。
おわりに
認証登録された製品は一定基準以上の光触媒性能を有しており安全性が確認された製品である。
9月11日現在、150製品が登録されており、2022年度は13製品が新たに登録されている。
認証された製品には図-4に示す認証マーク(PIAJマーク)が付与され、カタログ、包装、ウェブ情報等に掲載・表示できる。
さらに前述したように光触媒工業会ホームページ(※)で情報開示しており、製品名、セルフクリーニングや抗ウイルスなど認証取得分野、光触媒性能(確認済性能)等を確認できる。
光触媒製品検討の際には参考にしていただければ幸いである。
※光触媒工業会ホームページ-登録製品
URL:https://www.piaj.gr.jp/registered_products/
1) A. Fujishima, K. Honda、 Nature 1972, 238, 37.
2)R.Wang, K.Hashimoto, A.Fujishima, M.Chikuni, E.Kojima,
A.Kitamura, M.Shimohigoshi and T. Watanabe:Nature 388, 431(1997).
3)東京工業大学 物質理工学院 材料系 宮内雅浩教授、奈良県立医科大学 微生物感染症学講座 中野竜一准教授、神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部 抗菌・抗ウイルス研究グループ
4)https://www.titech.ac.jp/news/2020/048019.html
【出典】
積算資料公表価格版2023年11月号

最終更新日:2023-11-02
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