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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 防災・減災、国土強靱化施策の推進

2024年(令和6年)1月1日に令和6年能登半島地震が発生しました。
お亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げます。
また、被害に遭われた方に心からお見舞いを申し上げます。
 
政府においては、救命・救助活動を最優先に災害対応に取り組みました。
また、被災された方々の生活再建や被災地の復旧支援も重要です。
一方で、事前防災対策、減災対策に万全を期すということも重要であるとあらためて認識したところです。
 
ここでは、これまでの国土強靱化の取組を記述します。
 
 

はじめに

我が国は、地理的・地形的・気象的な特性により、地震、台風、高潮、津波、火山の噴火といった数多くの自然災害により、これまで多くの尊い人命を失い、莫大な経済的・社会的・文化的損失を被って来ました。
我が国はそのたびに、そこで得られた教訓を踏まえ、ハード・ソフト両面にわたり、自然災害への対応力を強化してきました。
 
一方で、近年、気候変動の影響などにより、風水害はより一層激甚化・頻発化しています。
今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震など、大規模地震の発生もひっ迫しています。
 
災害に対する国全体の強靱性(レジリエンス)を向上させるためには、自然災害の危機を直視して、平時から備えを行う「事前防災」の考え方に立ち、積極的に取組を進め ていくことが極めて重要です。

以下、「防災・減災、国土強靱化」について、国土強靱化基本法の改正、新たな国土強靱化基本計画の概要、国土強靱化の効果の発現、地方自治体や民間企業による国土強靱化の取組を紹介します。
 
 

1. 国土強靱化基本法の改正

2013年(平成25年)に議員立法により「国土強靱化基本法」が制定され、その翌年(平成26年)に政府は「国土強靱化基本計画(以下「基本計画」という。)」を策定し、これに基づいて、政府一丸となり、また地方自治体や民間企業などとも連携して、さまざまな国土強靱化の取組を進めてきました。
 
2023年(令和5年)は、国土強靱化基本法の公布・施行から10年を迎えましたが、議員立法により国土強靱化基本法が改正され、改正法が同年6月16日に公布・施行されました。
 
改正法では、一定の計画期間を定め、その期間内に実施する国土強靱化施策の内容・目標、推進が特に必要となる施策の事業規模等を定める「国土強靱化実施中期計画」が法定化されました(図-1)。
これにより現在実施している「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下「5か年加速化対策」という。)の後も実施計画が切れ目なく策定されることとなりました。
 
また、「国土強靱化推進会議」の設置が規定されたことにより、計画策定時に当たって有識者の意見を聴取する仕組みについて、制度的な公正性・中立性が担保されることとなりました。

図-1 改正国土強靱化基本法のポイント

 
 

2. 新たな国土強靱化基本計画

「基本計画」は、社会経済情勢等の変化や、国土強靱化の施策の推進状況などを考慮し、おおむね5年ごとに計画内容の見直しを行うこととされています。2018年(平成30年)12月の改定に続き、2023年(令和5年)7月に2回目の改定が行われました。
 
新たな「基本計画」は全4章で構成されており、第1章は、国土強靱化の基本目標である「①人命の保護」「②国家・社会の重要な機能の維持」「③国民の財産・公共施設の被害最小化」「④迅速な復旧復興」の4点を踏まえ、「国土強靱化に当たって考慮すべき主要な事項と情勢の変化」について新たに記載し、次の5点を政策の展開方向に位置付けました(図-2)。
(1) 国民の生命と財産を守る防災インフラの整備・管理
(2) 経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギーなどのライフラインの強靱化
(3) デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化
(4) 災害時における事業継続性確保を始めとした官民連携強化
(5) 地域における防災力の一層の強化
 
この中で、(1)においては、地域経済を支える防災インフラの整備、予防保全型メンテナンスへの本格転換など防災インフラの老朽化対策、建設・医療等の国土強靱化に携わる分野で働く人材の確保・育成などを推進することを記載しています。
 
また、(3)と(5)には新たな内容が多く盛り込まれています。
 
(3)では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の進展を踏まえ、デジタル技術を含めて積極的に新技術を活用し、災害対応力の向上などを図ることを記載しています。
 
(5)では、防災現場における女性の参画拡大や地域の文化財の防災対策など、多様性・持続性・強靱性の観点から、地元企業、NPO等の多様な主体の活動を積極的に支援し、地域コミュニティーの強靱化などを通じて地域防災力の向上を図ることを記載しています。
 
新たな「基本計画」の第2章は、計画改定の前段階に行う施策の総点検である「脆弱性評価」について、第3章は、脆弱性評価を踏まえた施策の推進方針を12の個別施策分野と6の横断的分野ごとにまとめています。
 
最後の第4章では、不断にPDCAサイクルを回すことで、施策の進捗状況および効果の検証等を行い、35の施策グループの推進方針、主要施策、重要業績評価指標(KPI)について、毎年度「年次計画」として公表するとともに、これまでと同様、おおむね5年ごとに計画内容の見直しを行うことを記載しています。

図-2 新たな国土強靱化基本計画の概要

 
 

3.国土強靱化の取組、効果の発現

政府はこれまでさまざまな国土強靱化の取組を進めてきましたが、災害は毎年のように発生し、特に2018年(平成30年)には、西日本豪雨、台風21号、北海道胆振東部地震などが相次いで発生し、多くの犠牲者が出ました。
また、高潮・高波による浸水で空港機能がまひしたり、地震によりブラックアウトが発生したりするなど、重要インフラが機能を喪失して、市民生活や社会経済活動に大きな影響を与えました。
 
このため政府は、重要インフラの緊急点検を実施し、その結果等を踏まえて、同年12月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(以下「3か年緊急対策」という。)を策定しました。
2018年度(平成30年度)から3年間で、特に緊急に実施すべき160項目の対策に取り組み、ほぼ予定通りの事業規模となる約6.9兆円を確保して、期間内におおむね対策の目標を達成しました。
 
しかし、その間も2019年(令和元年)、2020年(令和2年)と、全国各地で台風や豪雨による被害が発生しました。
激甚化する風水害や、切迫する大規模地震等に備えるための対策は相当の規模となり、その完了には長期間を要します。加えて、日々老朽化するインフラへの対策も、今後ますます重要となる課題です。
 
このような状況を受け、2020年(令和2年)12月に「5か年加速化対策」が閣議決定されました。
「5か年加速化対策」は、2021年度(令和3年度)から2025年度(令和7年度)までの5年間で、事業規模としておおむね15兆円程度の追加的な措置を行い、合計123の対策について、「中長期の目標」を設定した上で、これらの対策の加速化・深化を図るものです。
4年目の予算措置となる2023年度(令和5年度)は補正予算を含めると、累計で約8割まで進捗しています。
 
2023年(令和5年)は、梅雨前線や台風の影響などにより全国各地で大雨が発生しましたが、「3か年緊急対策」や「5か年加速化対策」等によりこれまで実施してきた国土強靱化の取組が効果を発揮し、被害が軽減された事例が多数報告されています。
 
豪雨に対する浸水被害防止対策では、河道掘削や浚渫の集中的な実施(全国で約8,960万m³(ダンプトラック約1,800万台分))、ダムの事前放流の実施などにより、過去と同じ規模の雨量が記録された河川において、被害が大きく軽減する効果が確認されました。
例えば、東北地方の雄物川水系雄物川では、6年前の2017年(平成29年)7月に大規模な浸水被害(浸水戸数705戸)が発生しましたが、2023年(令和5年)7月中旬の同規模の降雨に対し、浸水戸数ゼロとすることができました。
同様に、庄内川水系土岐川、大和川水系大和川、紀の川水系和田川、筑後川水系花月川、山国川水系山国川、筑後川水系赤谷川においても、過去に大規模な浸水被害をもたらした同規模の降雨に対して、浸水被害が大きく軽減されました(図-3)。

図-3 国土強靱化の取組と効果事例

道路については、法面・盛土対策や橋梁などの流出防止対策が未実施の箇所では大雨の被害が見られましたが、対策実施済みの箇所(全国で法面・盛土対策約5,000箇所、橋梁などの流出防止対策約150箇所)では大雨の被害や通行止めが発生せず、交通機能を維持することができました。
 
さらに、観測・予測の強化の効果も現れています。
2023年(令和5年)も多数の線状降水帯が発生しましたが(9月末時点で23回)、気象レーダーなどによる水蒸気等の観測の強化、スーパーコンピューターなどの活用により、半日程度前からの予測を行っており、運用開始前の想定を上回る実績を上げています。
線状降水帯は予測が難しい現象のため、現状では地方単位での広域の予測となっていますが、2024 年(令和6 年)から県単位で半日前からの予測を開始する予定です。
 
このほかにも、ため池の防災対策、治山事業による流木・土石流対策、海岸保全施設の整備など、国土強靱化に係る取組はさまざまな分野で進められており、被害を抑制する効果が確実に積み上がっているところです。
 
一方で、例えば、大雨の発生頻度は40年間で約1.5倍と増加傾向にあり(2013~2022年の年平均発生回数328回は、1976~1985年の226の約1.5倍)、気候変動による降雨量の増大に備え、必要に応じた事前防災対策の強化、未対策箇所の早期対策実施は一層重要となっています。
 
 

4.予算の確保と円滑な執行

国土強靱化の着実な推進を図るためには、対策の実施に必要となる予算の確保が重要となります。
 
近年は、「3か年緊急対策」や「5か年加速化対策」のための予算措置も加わり、国土強靱化関係予算は補正予算も含めて毎年度6兆円を上回る規模となっています(図-4)。
 
2023年度(令和5年度)補正予算では、現下の資材価格の高騰や賃金の上昇なども踏まえ、「5か年加速化対策」については、約1.5兆円の予算措置がなされました。
 
また、2024年度(令和6年度)予算案では、国土強靱化関係として約5.2兆円が計上されました。
 
これまでのところ、「5か年加速化対策」については、すべて補正予算による措置となっていますが、国庫債務負担行為(事業加速円滑化国債)の活用等により、大規模な事業も円滑に進めることができるようになっています。

図-4 国土強靱化関係予算の推移

 
 

5.地方自治体による国土強靱化の取組

国土強靱化を進めるためには、各地域において強靱化を進めていくことが重要であり、政府では地方自治体による「国土強靱化地域計画」(以下「地域計画」という。)の策定・改定や、地域計画に基づく取組の支援を実施しています。
 
「地域計画」とは、地域の強靱化を推進するために、国が定める「基本計画」と調和させ、国家レベルでは捉えることが困難な地域特性を踏まえたうえで地方自治体が策定する計画です。2023(令和5)年10月1日現在、全ての都道府県と、全1,741市区町村のうち1,730市区町村(99%)において「地域計画」が策定されたところです。
 
新たな「基本計画」において国土強靱化政策の展開方向のひとつに「地域における防災力の一層の強化」が位置付けられたことを踏まえ、内閣官房国土強靱化推進室では、地域住民や民間企業を巻き込んだ取組や、計画の見直しを検討する際の参考となるデータ・事例を多数掲載した「国土強靱化地域計画策定・改定ガイドライン(第2版)」を作成・公表しました。
 
国土強靱化推進室では、これまでの地域計画の「策定を促進」するフェイズから、「内容充実」を図るフェイズへと移行していく機会を捉え、地方自治体に対し、この「ガイドライン」を活用した出前講座を実施するほか、各府省庁の地方支分部局等による助言、地域計画に位置付けられた取組への関係府省庁所管の交付金・補助金の重点化等のさまざまな支援を通じて、さらなる地域の強靱化を推進していくこととしています。
 
またx、都道府県の独自の施策等を「国土強靱化に資する各都道府県独自の施策・事業事例集」として取りまとめ,ホームページ(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/tiiki.html)において公表していますので,是非ご覧ください。
 
 

6.民間企業による国土強靱化の取組

大規模自然災害から国民の生命・財産・暮らしを守り,サプライチェーンの確保など経済活動を含む社会の重要な機能を維持する「国土強靱化」の実現には、行政だけでなく民間企業・地域・個人での取組やハード面だけでなくソフト面の取組も必要不可欠です。
 
国土強靱化に向けた民間企業の取組は大きく、「従業員の命を守る・二次災害を防ぐ」、「事業を継続する」、「地域に貢献する、共生する」に分けられます(図-5)。

図-5 国土強靱化に向けた民間企業の役割

各府省庁や都道府県では,民間企業の国土強靱化の取組に対し,補助金,税制優遇,資金融資,規制緩和,技能提供・人材派遣,優良な取組事例の表彰や情報提供などのさまざまな施策により支援しています。
 
国土強靱化推進室では、国・都道府県における民間企業への支援施策や、先導的な取組の事例を取りまとめ、ホームページ(アドレスは後述)において公表していますので、是非ご覧ください。
 
また、災害が発生すると、ヒト・モノ・カネ・情報の四大経営資源が損なわれ、事業の復旧に時間がかかった場合には、取引先は代替先を探してしまうため、ビジネスチャンスを失うことにつながります。
 
一方、事業継続計画(BCP)の策定などの事前対策を行っていた企業は、取引先を失う前の早期に事業復旧していたことがデータからも明らかになっています。民間企業にとって,BCPを策定し事前に対策を立てておくことは極めて重要です。
 
BCP策定の推進を図るため、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会では、国土強靱化推進室が策定した「ガイドライン」に基づき、BCP策定などの事業継続に積極的に取り組む企業の認証(レジリエンス認証)を行っています。2018年(平成30年)からは事業継続に加え、地域貢献・共生にも取り組む企業の認証も行っています。取得がまだの企業は是非、取得をご検討ください。レジリエンス認証の詳細はホームページ
https://www.resilience-jp.biz/certification/)をご覧ください。
 
 

おわりに

今後も、新たな「基本計画」に基づき、ハード・ソフト一体となった取組を進めるとともに、「5か年加速化対策」後も、中長期的かつ明確な見通しの下、継続的・安定的に国土強靱化の取組が進められるよう、改正された「国土強靱化基本法」に基づき、施策の実施状況の調査など、「実施中期計画」の策定に向けた検討を進めていくこととしています。
 
災害時はもとより、事前防災を中心とする国土強靱化に関する取組を進めるため、インフラ整備等を担う建設関連産業に従事する方々をはじめとした、多くの関係者としっかり連携して取り組んでまいります。

 

※施策集、事例集のホームページアドレスは、以下のとおりです。
「国・都道府県の支援施策集」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/ sisakushu/index.html
「民間の取組事例集」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/r5_ minkan/index.html
 
 
 

内閣官房 国土強靱化推進室 次長 
岡村 次郎

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年3月号


公表3月号

最終更新日:2024-02-29

 

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