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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 時代の変化に対応した都市公園の役割と可能性

 

はじめに

都市公園については,人々のレクリエーション空間となるほか,良好な都市景観の形成,都市環境の改善,都市の防災性の向上,生物多様性の確保,豊かな地域づくりに資する交流の空間等の多様な機能を有する根幹的な施設であり,これまで多くの公園が整備されてきた。
 
これらの公園については,上記に掲げる機能を発揮してきたところではあるが,少子高齢化や施設の長寿命化等,社会情勢の変化もあり,公園に求められる役割・機能についても徐々に変化しつつある。本稿では公園をめぐる最近の情勢について述べるとともに,都市公園が目指す方向,また,それを受けた制度改正の内容について述べる。
 
 

1. 都市公園の現状

日本の都市公園については,高度経済成長期以降の整備は目覚ましく,昭和35年に約1.4万haであった都市公園の面積は平成29年には約12万haまで増加した。これら整備された公園は都市環境の改善に大きく寄与してきたとともに,防災機能の強化や生物多様性の確保,ヒートアイランド現象の緩和,また観光スポットの創出に寄与してきたところである。
 
一方で,都市公園の現状をみると,高度経済成長期やそれ以前に整備された公園の老朽化が顕在化している。公共施設全体としては,地方公共団体の財政的な制約を踏まえ,老朽化した公共施設の効率的なマネジメントを推進するため,公共施設等総合管理計画等により,人口減少に対応した公共施設のボリュームの適正化が推進されている。
 
施設の老朽化とともに,高齢化や人口減少の進行もまた,都市公園の維持管理に大きな影響を与える要因となる。特に,土地区画整理事業や開発許可制度等を通じて整備された小規模な公園は公園愛護会等,住民参加による清掃や花壇整備等の維持管理が行われてきたが,高齢化の進行により,従来の住民参加型管理を継続することが困難になりつつある。一方で,健康寿命の伸長や社会的な孤独への対応が関心を集める中で,日常の運動やコミュニケーションの場となる身近な公園が一層活用されることが,社会的に大きな意義を持つようになっている。
 
身近な都市公園の維持管理を持続的にするための方向性の一つとして,より住民が望む活動を公園でできるようにすることで維持管理への参加を促すことがある。都市公園の維持管理については,平成15年の地方自治法改正による指定管理者制度の創設以来,比較的規模の大きな公園から指定管理者制度の活用が進み,民間事業者が指定管理者となる割合も増加している。地方公共団体も職員が減少する中で,よりきめ細かい住民参加を実現する上では,民間事業者やNPO等が行政と地域住民の間に入り,住民参加活動を持続的なものとすることは非常に有効である。
 
 

2. 都市公園における官民連携の経緯

都市公園における民間主体と連携した取組みの歴史は長く,都市公園法には,昭和31年の法制定当初から,民間事業者等が公園管理者の許可を受けて飲食店等の公園施設を設置することができる設置管理許可制度が設けられている。本制度による許可は,公園管理者が自ら行うことが困難である場合に限られていたが,平成16年の改正で,公園管理者以外の者が設置することについて「当該都市公園の機能の増進に資すると認められるもの」という要件が追加され,民間事業者や地域住民による公園施設の設置を幅広く可能にしている。
 
近年,大都市を中心として,設置管理許可制度や指定管理者制度の柔軟な運用により,民間事業者のノウハウや資金を活用した公園の活性化の取組みが実施されている。具体的には,民間事業者が公園内に設置するカフェ等の施設から得られる収益を前提とした投資により芝生広場の整備を含む公園のリニューアルを実施した大阪市の天王寺公園の「てんしば」や,カフェや駐車場の設置から得られる収益を前提に周辺の公園整備の一部を民間事業者が負担した名古屋市名城公園の「tonarino」の事例等がある。他にも,設置管理許可によるレストランの事業者を公募し,収益の一部を指定管理者である公益財団法人東京都公園協会の基金を通じて都立公園の魅力向上等のための事業に充当した東京都の「駒沢オリンピック公園」の事例や,指定管理者に収益源のある公園施設を含めて公園全体の管理運営を委ね,管理運営に係る経費は有料施設からの収益やイベント収入等のみで賄う大阪市の大阪城公園におけるPMO(Park Management Organization)事業の事例等,民間事業者の収益を公園の管理等に活用し,地方公共団体の財政負担を抑えつつ公園の活性化を図るさまざまな取組みが行われている。
 
平成29年5月に公布された都市緑地法等の一部を改正する法律は,平成16年の景観緑三法以来の都市緑地法,都市公園法等の大きな改正であり,国の公園緑地政策において,人口減少や地方公共団体の財政面等の制約等といった社会経済情勢の変化に伴う課題に本格的に対応した初めての改正であった。主な改正内容としては,都市緑地法における市民緑地認定制度の創設,都市公園法における保育所等の占用物件の追加や公募設置管理制度(Park-PFI)の創設,都市計画法における新たな用途地域である田園住居地域の創設,生産緑地法における特定生産緑地制度の創設等が挙げられ,いずれも民間主体による緑とオープンスペースの確保や活性化を意図したものである。
 
この背景は,「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」の最終とりまとめ(平成28年5月)で示されており,そこでは,欧米の都市に比して絶対的に不足している都市公園の量的な確保を急ぐこと,強い開発圧力から良好な緑地を保全することを重視してきた公園緑地政策について,緑とオープンスペースの多機能性を,都市のため,地域のため,市民のために引き出すことまでが役割であるという認識へと転換するべきとされている。特に,本来は多機能な空間であるはずの都市公園が,市民や民間事業者等からのさまざまなニーズや要望・苦情等に対する多くの利用調整等の結果,禁止事項や規制が多い空間と見なされているとして,個々の都市公園が有するポテンシャルに応じて柔軟に使いこなすとともに,施設の老朽化が進む中で,緑とオープンスペースの戦略的なストックマネジメントを行っていくことが重要とされた。これらの指摘は,都市公園法等の改正へとつながるとともに,地方公共団体が都市公園のマネジメントプランを策定する動きが広がる等,公園緑地行政の新たな方向性を考える上での指針となっている。
 
 

3. 公募設置管理制度(Park-PFI)について

3-1 概要

平成29年の都市公園法改正により創設されたPark-PFIは,公園施設の設置管理許可の事業者を公募する手続きおよび関連する特例措置を法律に定めたものであり,当該公募においては,飲食店,売店等(公募対象公園施設)の設置と,当該施設から生ずる収益を活用して施設周辺の園路,広場等(特定公園施設)の整備,改修等を一体的に行う者を募集することとされている(図-1)。
 

図-1 公募設置管理制度(Park-PFI)の概要




 
Park-PFIは,従前は実現し得なかった取組みを可能にしたというよりも,大都市を中心に見られた民間事業者による公園再整備の動きを全国に展開することを意図したものであり,新たに,設置管理許可の更新の保証,建ぺい率の特例,看板や広告等に関する占用特例,社会資本整備総合交付金や都市開発資金による財政支援が措置されている。
 
設置管理許可の更新については,公園管理者が認定する公募設置等計画の有効期間を最大20年とし,当該期間内の設置管理許可の更新を担保している。これにより,民間事業者が収益施設を新たに建築する場合でも,事業が安定的なものとなることが期待される。
 
公園施設の建ぺい率は,都市公園法において,地方公共団体が条例で定めることとされ,その上で参酌すべき割合を示している。通常の公園施設の建ぺい率は2%を参酌して条例で定めることとされる中で,Park-PFIによって公募対象公園施設として設置されるカフェ等の収益施設の建ぺい率については,10%を参酌して条例で定めることを可能にしている。これは,法改正以前の民間活用の取組みが大規模な公園に限られていたことを踏まえ,より規模の小さな公園まで対象を広げることを意図している。
 
交付金によるPark-PFIに係る財政支援については,民間事業者等が実施する公園整備に対して地方公共団体が費用負担をする場合に,当該費用負担に対して社会資本整備総合交付金を活用することができる。これにより,民間事業者の公園内での収益事業からの公共還元のみで対応できる範囲を超えて民間提案を活かした公園の再整備等を進めることが可能となる(図-2)。
 

図-2 「官民連携型賑わい拠点創出事業」および「賑わい増進事業資金」の概要




 
 

3-2 サウンディングによる事業スキームの構築

国土交通省では,公園管理者がPark-PFIの活用に当たっての留意点や想定される手続きについて,「都市公園法運用指針」および「都市公園の質の向上に向けたPark-PFI 活用ガイドライン」で示すとともに,公募設置等指針の雛形を公表して制度活用を図っており,本稿の執筆時点で,全国の100を超える公園を対象にPark-PFIの活用が検討され,25の公園で公募設置等指針が公表されている(表-1)。
 

表-1 Park-PFI活用事例




 
都市公園法上の規定はないものの,Park-PFIにおける重要なプロセスとして,民間事業者等との対話による市場調査(サウンディング)がある。サウンディングは,公募による事業スキームの妥当性の確保や適切な官民の役割分担を決定するために実施され,その多くは,地方公共団体のウェブサイト等で実施条件を示し,応募してきた事業者等と対話を行う公募型として実施されている。全国で試行錯誤しつつサウンディングが行われている中,地方公共団体からは,民間事業者から良い提案を受けるための手段が分からないという戸惑いの声を聞く。一方で,民間事業者からは地方公共団体がどのような公園にしたいのか明確に示さないために,どのような提案が求められているのか分からないという声を聞くことが多い。また,事業のスケジュールが明確でない等,行政側の準備不足を指摘する声も聞こえる。地方公共団体の担当者としては,公平性の観点から事業を実施する前にどの程度情報を公開してよいか判断が難しいだろうが,サウンディングの目的を考えれば,公平性を理由に民間事業者が検討に必要な情報を提供できないようでは,立地環境に優れた公園を除き,成果を挙げることは難しいだろう。特に,対象とする都市公園が市場性に劣る場合には,サウンディングの中で,地方公共団体が当該公園に対する方針を明確にした上で,公園周辺の地域資源を含めた情報提供を行うとともに,再整備に係る財政負担の必要性等,公園管理者と民間事業者の役割分担について,幅広く意見交換することにより事業の実現性が高まると考えられる。
 
 

3-3 民間の資金・ノウハウの活用に当たっての視点

Park-PFI含め,近年の都市公園における民間ノウハウの導入においては都市公園の整備や管理を担当する部局以外が公募等を実施する事例が見られ,公共施設の再編の一環としての公園の利活用や,高齢社会への対応として福祉部局との連携した取組み等,都市公園単体の整備や管理という枠の中に留まらない取組みが期待される。
 
一方で,公園管理者が自ら管理する都市公園ストック全体を持続的なものとする観点から,都市公園の新たな利用や維持管理の財源確保を意図して民間事業者との連携に取り組むことも期待される。前述の名城公園の事例は,緑の基本計画の改定および公園経営基本方針の策定という,市内の都市公園ストック全体を対象とした今後の在り方の検討を経て実施されている。また西東京市においても「西東京市公園配置計画」の中で,比較的大きな公園におけるPark-PFIの導入と,そこから得られる収入を,その他の公園管理にも活用するという方向性が示されており,指定管理者制度とPark-PFIの連携による公園ストック全体の価値の向上が期待される。
 
 

おわりに

人口減少等,さまざまな制約の中で,今後の緑とオープンスペースを持続的に維持管理していく上で,行政の役割は変わらず重要であるものの,行政主導で全てのストックの価値を発揮していくことは困難であり,民間事業者をはじめ多様な者による主体的な取組みを推進することが不可欠である。その上で,長期的な視点から緑とオープンスペースの方向性を示すことは有効であり,都市公園であればマネジメントプランの作成,民有地の活用であれば当該空間に求められる役割を緑の基本計画等の上位計画に方向性を明示することは,その第一歩となるだろう。
 
 
 

国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 公園利用推進官  峰嵜 悠

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年8月号



 
 

最終更新日:2023-07-10

 

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