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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 構造物とりこわし・解体工法 > SDGs時代における解体工事のあり方

はじめに

昨今、ニュースやテレビ番組などでSDGs(Sustainable Development Goals)が取り上げられることが増えている。
これは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であり、17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」ことを誓っている。
目標となるゴールには、経済、教育、健康、安全、環境に関わるものがあり、個人はもとより、企業などさまざまな組織が取り組むべき課題とされている。
 
一方、建築分野においては、2000年頃から温暖化や資源問題に及ぼす環境影響への認識が高まり、建築物省エネ法や建設リサイクル法などが施策化され、各種の取り組みが進んでいる。
 
本稿で取り上げる解体工事は、建築物の建替え時など、既設の構造物が社会的ニーズを満足しなくなった際に行われる工事である。
取り壊された建設資材は廃棄物となり、膨大な建築物のストックが存在する我が国において、その再資源化や適正処理といった資源循環の要となる産業といえる。
 
そこで本稿では、筆者らが行った解体工事業を始めとする静脈側の企業のSDGsへの意識に関する調査などから、サステナビリティを考慮した解体工事のあり方について述べる。
 
 

1. 解体工事とSDGs

SDGsの17のゴールのうち、ゴール11の「住み続けられるまちづくりを」が建築分野に最も関連深いといえるが、ゴール12の「つくる責任つかう責任」は、資源循環に深く関連するものである。
建築物は豊かな生活を過ごすうえで欠かせない社会基盤であり、安心・安全な建物とするだけでなく、その役目を終えてからは、使ったものの責任として、排出される廃棄物を有効利用することが求められる。
 
図-1は我が国における資源のマクロ的な流れである物質フローを示したものである。
投入される天然資源のうち消費される国内資源の80% 以上は岩石・砂利および石灰石で、その多くが建設工事で消費されている。
図-2は産業廃棄物排出量の産業別割合で、全体で年間約4億トンの約2割は建設廃棄物である。
 
解体工事から排出される建設廃棄物を天然資源に置き換えることがどれだけ重要か、これらのデータからわかる。
裏を返せば、不適切な解体工事は、我が国の資源循環のシステムを阻害することとなり、SDGsのゴール12の達成に向けて、解体工事業者や廃棄物処理業者の役割が非常に大きいといえる。
では、「実際の解体工事業者はどこまでSDGsに対して意識をもっているのであろうか?」といった疑問から、筆者らが行った調査について次に述べる。

図-1 我が国の物質フロー(2019年度)1)
図-1 我が国の物質フロー(2019年度)1)
図-2 産業廃棄物の業種別排出量(2018年度)1
図-2 産業廃棄物の業種別排出量(2018年度)1)

 
 

2. 解体工事業者のSDGs・環境配慮への意識調査

2.1 調査の概要
1) 調査対象

アンケートは2種類あり、一つ目はSDGsや環境配慮等の企業の認識の程度や興味を把握することを目的とし、対象は廃棄物の収集運搬を行う企業、廃棄物処理業者および解体工事業者とした。
二つ目は解体工事の現状把握を明らかにすることを目的としたもので、対象は解体工事業者とした。

 

2) 調査内容

アンケート調査の主な内容を表-1に示す。
一つ目のSDGs関連アンケートの回答数は、廃棄物の収集運搬業者は16件、中間処理業者は35件、解体工事業者は101件であった。
また、二つ目の現状把握関連アンケートは、解体工事業者57社から回答を得た。
 
表-1 アンケート調査の主な内容

  1. SDGsに関するアンケート調査
    ①回答社情報(資本金、従業員数等)
    ② SDGsの認知度
    ③ SDGsへの取り組み
    ④ SDGsの各ゴールと自社の取り組み
    ⑤環境活動
  2. 解体工事の現状把握に関するアンケート調査
    ①回答社情報(資本金、従業員数等)
    ②所有重機とその使用状況
    ③自社で対象とする解体工事物件種別
    ④廃棄物の分別状況
    ⑤廃棄物の発生量予測

 

2.2 SDGsに関するアンケート調査結果・考察
1) SDGsについてのアンケート結果

① SDGsの認知度について
SDGsの認知度について、図-3に結果を示す。

図-3 SDGsの認知度について
図-3 SDGsの認知度について

 
『ほとんどの社員が具体的な内容を知っている』(7%)、『一部の社員(専門部署等)は、具体的な内容を知っている』(37%)と2 つを合わせて 44%となった。
筆者が別途行った住宅メーカや建設会社を中心に行った調査2)と比べると大きく異なる結果になった。
これは社会に名前が出やすい企業ほど、積極的に情報を取り込もうとしているためと考えられる。
 
② SDGsの取り組み状況
SDGsの取り組み状況について、業種ごとの結果を図-4に結果を示す。
検討する予定がないと回答した企業の割合が多かったのは解体業(46%)であった。
解体工事業は、企業規模が小さい企業が大半を占めていたため、検討する余裕がないと考えられる。
一方で、収集運搬業や廃棄物処理業は、環境保全の面で各種法令順守を求められることが多く、取り組みが進んでいると考えられる。

図-4 SDGsの取り組み状況について
図-4 SDGsの取り組み状況について

 
③ SDGsへの取り組みや検討のきっかけ
『経営層も含め、全社レベル(特定部署を中心)で進めている。』、『特定部署での検討を始めている。』と回答した企業を対象としたSDGsへの取り組みや検討を始めたきっかけについて調査を行った結果を図-5に示す。
取り組んでいないを除けば『経営層からの指示があった。』という回答が最も多かった。
経営層に対して取り組むメリットを提示することがSDGsの普及向上に一番効果的であると考えられる。

図-5 SDGsへの取り組みや検討のきっかけ
図-5 SDGsへの取り組みや検討のきっかけ

 
④ SDGsへの取り組みの公表状況
SDGsへの取り組みの公表状況について調査を行った結果を図-6に示す。
取り組んでいる企業のうち、解体工事業では公表している企業はやや少ない結果であった。
一方で、収集運搬業および廃棄物処理業は、公表している割合が多く、特に廃棄物処理業では、SDGsのターゲットとの関係を整理していない会社も含めれば100%公表されている。
さらに具体的な取り組みを示している企業も、廃棄物処理業では半数以上となって、取り組みが進んでいる様子がわかる。

図-6 SDGsへの取り組みの公表状況について
図-6 SDGsへの取り組みの公表状況について

 
⑥ SDGsのゴールと企業の取り組みとの関係
SDGsの17 のゴールとの企業の取り組みの関係について、調査を行った結果を図-7に示す。
回答結果としては、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」が『関係が深い』の割合は最も多く、次いでゴール12「つくる責任・つかう責任」であった。
これは、扱っているものが建築物や建設廃棄物であることが理由と考えられる。
また、ゴール7「エネルギーをみんなに」、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」などの環境影響に関連するゴールについても、『関係が深い』と『関係がある』と回答した割合が2/3 程度と比較的高くなっており、建設廃棄物が資源問題や環境影響と関連するものとして認識されていることがわかる。

図-7  SDGsのゴールと企業の取り組みとの関係について
図-7  SDGsのゴールと企業の取り組みとの関係について

 

2) 環境活動についてのアンケート結果

本調査については廃棄物処理系(静脈系)企業のほかに、比較のため他の研究で実施した建設業、製造業、不動産業(動脈系企業)の結果2)も合わせて示している。
なお、建設業(大)と建設業(小)は、従業員数50名で区切っている。
 
①環境マネジメントシステムの認識状況
『“環境マネジメントシステム”という言葉を知っているか。』という質問に対しての結果を図-8に示す。
昨今のパリ協定やSDGs等の環境系の制度や取組が増加している状況と、それらの達成を考えると、この設問の数値は伸ばしていく必要がある。
業種別にみると住設・製造業や収集運搬業、廃棄物処理業での認識状況が94%と非常に高いが、建設業(小)では、他業種と比較すると認識状況が低い結果となった。
環境保全に対する様々な規制や要請は今後も強化されていることが予想されるため、このような動きに対応していくため環境マネジメントシステムにより一層取り組む必要があると考えられる。

図-8 環境マネジメントシステムの認識状況
図-8 環境マネジメントシステムの認識状況

 
②環境活動に対しての、行動計画策定の有無
『環境活動に対して、行動計画を策定していますか。』という設問についてのアンケート結果を図-9に示す。
分野別の比較結果を見ると、『はい』と回答した企業が少なかった業種は、建設業(小)(0%)不動産業(19%)の二つであった。
対して収集運搬業および廃棄物処理業の場合、『はい』と回答した企業は非常に高いものであった。
よって、企業規模によって行動計画策定の有無が分かれているのではなく、業種が主な要因となっていると考えられる。

図-9 環境活動に対しての,行動計画策定の有無
図-9 環境活動に対しての,行動計画策定の有無

 
③環境報告書やCSRレポートの公表の有無
『貴社では環境報告書やCSRレポートなどを公表していますか。』という質問についての結果を図-10に示す。
この質問に対して『はい』と回答した企業の割合は動脈系企業で28%であった。
 
それに対して、静脈系企業の結果を業種別比較してみると、この質問に対して『はい』と回答した企業の割合は収集運搬業で88%、廃棄物処理業で63%であった。
この結果より動脈系企業以上に、収集運搬業や廃棄物処理業を営む企業は自社の活動が環境面及ぼす影響が大きい分、報告することに対して積極的であると考えられる。

図-10 環境報告書やCSRレポートの公表の有無
図-10 環境報告書やCSRレポートの公表の有無

 

3) SDGsのゴールと企業の取り組みとの関係

図-11および図-12にSDGsのゴールと企業の取り組みとの関係についてまとめた結果を示す。
まず、最も『関係が深い』、『関係がある』と回答した割合が多かったのは、ゴール11、次いでゴール12であった。
ゴール11に関しては、動脈系企業で『関係がない』と回答した企業はほぼ0であった。
収集運搬業者をはじめとした静脈系の業者でも7割以上に関係があると考えていることが分かった。
また業種別に比較すると、建設業内では規模の大きい企業の方が『関係が深い』と考えている企業の割合が多かった。

図-11 ゴール11 住み続けられるまちづくりを
図-11 ゴール11 住み続けられるまちづくりを
図-12 ゴール12 つくる責任,つかう責任
図-12 ゴール12 つくる責任,つかう責任

 
さらに建設業界では上流工程である動脈系企業の業種のほうが、下流工程である静脈系の企業よりも社会の注目度が高いために、数値が高くなっていると考えられる。
また、帝国データバンクの 調査で日本の企業が最も『現在力を入れている』と回答した割合が大きかったゴールはゴール8の“働きがいも経済成長も”であり、本アンケートで最も高い数値のゴール11は全体3番目、ゴール12は全体4 番目であった。
これは、建設業界と廃棄物処理業界が全業種のなかでも、より環境問題に関わることが多い業種であることが考えられる。
 

2.3 解体工事の現状に関する調査・考察
1) 重機使用に関する把握状況

①重機の燃料消費量把握
工事業者が及ぼす環境影響として、エネルギー消費への意識が挙げられる。
そこで、重機に使用する燃料使用量を把握しているかについて調査した。
その結果を図-13に示す。
燃料の使用量について把握している企業は46%、把握していない企業は54%であった。
半数以上の企業が燃料使用量の把握をしておらず、この面において解体工事業の環境への意識はそれほど高くないと考えられる。

図-13 重機使用における燃料消費量把握率(n=57)
図-13 重機使用における燃料消費量把握率(n=57)

 
②環境配慮型重機の保有割合
次に、省エネルギーや低炭素への配慮として考えられるのは、環境によい重機を使うことである。
そこで、保有している重機の台数とそのうち低振動型重機、低騒音型重機3)、低炭素型重機4)の台数を調査した。
その結果を図-14に環境配慮型重機の保有割合で示す。
保有している重機のうち環境配慮型の重機割合が100%である企業は全体の65%であり、多くの企業が環境配慮型の重機を取り入れていた。
また、100%でない企業でもほとんどの企業が50%を超える割合であり、全体の平均としては87.9%であった。
よって、解体工事業者は、重機使用については環境配慮型の機器選定をしているといえる。
ただし、工事を進める上で、近隣住民の理解を得るため、低振動・低騒音を使う必要があることが大きな理由と考えられる。

図-14 環境配慮型重機の保有割合(n=55)
図-14 環境配慮型重機の保有割合(n=55)

 

2) 分別、リサイクルの現状

①分別に手間のかかる廃棄物
調査の結果、コンクリート塊、木材、石膏ボード、スレートなどは分別率が高いことがわかった。
しかし、図-15に示した分別に手間のかかる廃棄物をみると、石膏ボード(15%)、木材(10%)、コンクリート塊(7%)と分別率の高い分別物に手間がかかると感じている企業が多かった。
しっかりと分別している分手間に感じること、また分別物の量が多いことが要因として考えられる。
そのほかでは、有害なアスベストに関するものも回答割合が高い。

図-15 分別に手間のかかる廃棄物(n=57)
図-15 分別に手間のかかる廃棄物(n=57)

 
②リサイクル率の把握
図-16にリサイクル率の把握率を示す。
『廃棄物全体として把握している』、『品目ごとに把握している』、『把握していない』の選択肢を用意したところ、両方把握している企業は41%、どちらかのみ把握している企業は31%、把握していない企業は28%となった。
把握していない企業の特徴として企業規模が小さい、解体工事件数が少ないといったことが挙げられる。
なお、個別にみるとコンクリート塊、木材、鉄筋、金属は多くの企業でリサイクル率100%であり、そのほかの廃棄物ではリサイクル率の数値に幅があった。

図-16 リサイクル率の把握率(n=56)
図-16 リサイクル率の把握率(n=56)

 
 

おわりに

紹介した調査のうち、解体工事や廃棄物処理に係る静脈側企業は、全国解体工事業団体連合会の会員企業を中心とし、その他に優良認定を受けている廃棄物処理業者へ実施した。
その結果、SDGsの認知度と現在の取り組み状況には関連性があり、SDGsの具体的な情報を企業内で認知しているほど、取り組んでいる割合が高かった。
 
今回紹介した調査など、解体工事業者の環境意識の現状について結果を共有し、環境意識の向上へ繋げる必要がある。
また、図-17は環境配慮あるいはSDGs時代に向けて、今後取り組みを加速すべき事項について関するイメージである。
具体的には、適正な解体工事を実施するためのコストと環境負荷を合わせて算出するシステムが必要で、この数値が明確になることで、建設廃棄物の適正処理や再資源化が促進されると考えている。

図-17 環境配慮型重機の保有割合(n=55)
図-17 環境配慮型重機の保有割合(n=55)

 
取り組みを阻害している最大の原因は情報不足であったことから、SDGsに対する正確な情報やメリットを企業に認知させることで、建築業界全体でSDGs達成のための取り組みが促進できると考えられる。
また、環境活動においては、静脈系企業でも動脈系企業と同等、あるいは環境管理組織の設置など動脈系よりもよい結果を示したものもあった。
 
解体工事における重機使用の現状や分別・リサイクルの現状について調査を行った。
その結果、重機使用に関しては環境負荷型の重機を採用している企業は多かったが、燃料の使用量の把握を行っている企業は多くはなかった。
また、廃棄物の分別・リサイクルに関して分別を行っている分別物と行っていない分別物の差が大きく、リサイクル率の把握を行っている企業はそれほど多くはなかった。
 
 
【参考文献】
1) 環境省:環境・循環型社会・生物多様性白書
2) 住宅生産団体連合会:第6回 環境行動意識 調査結果、https:// www.judanren.or.jp/activity/committee/kankyo.html
3) 国土交通省:低騒音型・低振動型建設機械の指定に関する規程、建設施工・建設機械:低騒音型・低振動型建設機械の指定に関する規程、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/constplan/ sosei_constplan_fr_000006.html
4) 国土交通省:低炭素型建設機械認定制度、建設施工・建設機械:地球温暖化対策、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ constplan/sosei_constplan_tk_000005.html
 
 
【謝辞】
本研究の一部は、令和3年度「解体工事に係る調査・研究に対する助成」によって実施したものである。
また、調査にあたっては本研究室温卒業生である菅井新太氏・石山夢ら氏の協力を得た。
ここに厚く謝意を表します。
 
 
 

明治大学理工学部 教授
小山 明男

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年11月号

積算資料公表価格版2023年11月号

最終更新日:2023-10-24

 

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