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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 令和6年能登半島地震から学ぶ、災害時のトイレ

はじめに

令和6年能登半島地震における被災者の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
災害時のトイレ事情の改善を目指して2019年に発足した一般社団法人日本トイレ協会災害・仮設トイレ研究会(以下、「災害トイレ研」という。)では、発足以来活発に活動を行っている。
今回は、2024年(令和6年)1月1日に発生した能登半島地震の事例を中心に、災害時のトイレについてどのような備えが効果的かを考えていく。
 
 

1. 被災地のトイレを取り巻く環境

2024年(令和6年)1月1日16時10分頃、最大震度7の地震が能登半島を襲った。
津波も発生し、日本海側の地域には広い範囲で大津波警報が発令されるなど、新年を迎えたばかりの日本列島は緊迫した空気に包まれた。
本稿作成時点では、甚大な被害状況が次第に明らかになってきている最中であるが、災害トイレ研では今後被災地のトイレ状況を現地にて調査する方向で検討に入っている。
 
被災地では土砂崩れ等で道路が寸断され、被害の大きかった地域への救援物資の輸送が困難な状況だ。
地域の小学校や公民館などで避難所が開設され避難者が訪れているようだが、次第に聞こえてきているのは「トイレ問題」である。
とあるニュースでは、水道が遮断され水が流れないにもかかわらず既設のトイレが使われて汚物が溜まってしまい、不衛生でとても使用できる状況ではないという。
「携帯トイレ」「簡易トイレ」の備蓄も十分ではなかった地区もあったようで、このような状況が各地の避難所でも起こっていることは、容易に想像できる。
仮設トイレ輸送に関しては被害が大きい地域への道路が大きく被災していることに加え、渋滞も発生。
通行止めの状況も刻々と変化しているため、避難所に仮設トイレを届けるための輸送にかかる時間が、通常時の数倍必要になっている。
 
熊本地震以降、災害が起こった場合に速やかにトイレ関連の物資を届けるにはどのような連携を取るべきか、関係各所で検討が進められてきた。
今回の能登半島地震ではこの連携を生かし、発災と同時に、国や災害トイレ研および関連企業は被災地への支援に向けて動いていた。
災害トイレ研が把握している事項で言うと、まず初めに水を使用せずに用を足せる「携帯トイレ」「簡易トイレ」が被災地に向けて出荷された。
同時に「仮設トイレ」についてもその必要棟数、設置場所、輸送方法等を確認しながら被災地への設置に向けて調整の上、輸送が行われている(写真-1、2)。
前述したように道路状況が悪い中、陸路だけでなく海路や空路での輸送も検討された。
その結果、発災後数日後から被災地には少しずつ仮設トイレが設置されている(写真-3、4)。

写真-1 輸送準備中の仮設トイレ(中型トラック)
写真-2 輸送準備中の仮設トイレ(大型トレーラー)
写真-3.4

 
 

2. 発災後のトイレの充足度について

今回の地震におけるトイレに関するこれらの状況は、国土交通省が作成した「トイレの充足度のイメージ図」(図-1)とほぼ合致する。
手配と道路状況によって「仮設トイレ」が避難所に行き渡るまではある程度の日数を要し、その間、上下水道が使用できない場合があることも考えると発災から数日間は「携帯トイレ」「簡易トイレ」を準備しておくことが有効である。
また、「携帯トイレ」「簡易トイレ」も道路状況等によっては避難所等にすぐに届けられない
場合も大いに考えられるため、これらの備蓄を事前に充分に行うことが重要となる。

図-1 トイレの充足度のイメージ図

災害トイレ研では3年に1度、「携帯トイレ」「簡易トイレ」の備蓄状況に関するアンケート調査を行っているが、2023年7月に行われた最新の調査結果では備蓄率が22.2%となった(図-2)。
前回調査よりも数値は上昇しているが、備蓄している家庭は5軒に1軒ほどとまだまだ少ないと言える。
備蓄すべき数は1人1日あたり5回分とされ、経済産業省もこれを推奨している(図-3)。
能登半島地震の状況を見ても、備蓄の重要性が明らかになったと言えよう。
災害トイレ研は能登半島地震を始めこれまでの災害での教訓をもとに、今後さらに備蓄推進を行い、災害時のトイレ問題に取り組んでいく。

図-2 備蓄率アンケート結果
図-3 トイレ備蓄推進リーフレット

 
 

3.災害時のトイレと建設現場のトイレとの関係

ここで災害時のトイレと建設現場のトイレの関係を見ていこう。
実は、災害時には普段は建設現場で使われている仮設トイレの余剰在庫が避難所へ運ばれていく。
従って、建設現場のトイレが良いものになれば、そしてその棟数が増加し、全国各地で恒常的に使われるようになれば、災害時に避難所等へ設置されるトイレも必然的に良いものが速やかに届くようになるのである。
国土交通省では2016年10月に直轄工事現場への「快適トイレ」設置を原則化した。
「快適トイレ」とは、建設現場を働きやすい環境とするための取組みの一環として男女ともに快適に使用できる仮設トイレを「快適トイレ」と名付けてその仕様を定め(洋式便座、水洗および簡易水洗機能、容易に開かない施錠機能、等)、2016年10月1日以降に入札手続きを開始した工事から導入しているものである。
建設業における労働環境改善が主な目的ではあるが、副次的に災害時のトイレ環境が改善されることも視野に入れられた取組みである。
 
 

4.快適トイレの普及

では、現時点で「快適トイレ」はどの程度広がっているのか。
国土交通省による調査によると、設置率は全国平均で原則化直後の2016年度はおよそ25%であった。
設置率が低い理由についても同時にヒアリングされているが、回答の中には「取扱会社が少ない」「レンタル会社の保有台数が少ない」と供給不足を原因とする意見が多かった。
2年後の2018年度にはおよそ45%まで上昇しており、直轄現場の半分以上で未設置ではあるが、徐々に増えている。
 
2016 年の原則化を受け各メーカーでは「快適トイレ」の製造を進めてきた。
メーカーが製造した「快適トイレ」をレンタル会社が保有し、そこから建設会社が建設現場にレンタルを行うことで使用が可能となるが、今回はメーカーが製造する快適トイレの出荷比率、そしてレンタル会社が保有する快適トイレの出荷比率の変化を調査した(図-4、5)。

図-4 メーカーにおける快適トイレ等の出荷比率
図-5 レンタル会社における快適トイレ等の出荷比率

調査対象時期は、2010年10月から2020年10月における和式トイレ、洋式トイレ、2020年10月以降は「快適トイレ」も加えたそれぞれの出荷比率をヒアリングした。
和式トイレ、洋式トイレはその中で水洗式、簡易水洗式に分かれる(語句については後述する)。
 
結果を見ると、「快適トイレ」の原則化が始まった前後では洋式トイレ(快適トイレを含む)の比率が原則化前のおよそ2倍になり,メーカー・レンタル会社の各企業が洋式トイレ,快適トイレの数を増加させていることがわかる。
 
国土交通省だけではなく全国の都道府県やその他自治体等でも快適トイレの使用に向けた予算化が進んでいるため、今後もこの傾向は続いていくと考えられる。
 
また、災害トイレ研では、仮設トイレに関する語句の定義やカテゴライズについてもまとめている。
災害時、避難所等に設置するための発注の際に仮設トイレの細かい仕様がわからないことによる混乱を避けるために、特に「快適トイレ」に関連する語句を中心に定義を明確にすることを目指した。
 
カテゴライズは、仮設トイレの大きさ、洗浄方式、処理方式、そして手洗器について実施した(図-6)。
これらが明確になることで、災害時のトイレの手配や「快適トイレ」の発注等で仮設トイレの大きさや汚物の処理方式について間違いが起こりにくくなる効果も期待できる。
これらは当研究会のHP(図-7)に公開しており、今後周知を図っていく。

図-7

 
 

おわりに

今回の能登半島地震では、災害用トイレの備蓄と「快適トイレ」の普及の重要性が改めて浮き彫りになったと言えるのではないか。
トイレの備蓄があれば、救援物資の輸送が進まない中でも発災後の何日かを衛生的に過ごすことができ、「快適トイレ」が全国各地に普及していれば輸送距離も短くなり、より早く被災地に使いやすく快適な仮設トイレを届けることができる。
災害トイレ研では今後も、この災害の調査と分析を行う中で、災害時のトイレ問題の解決に向けて引き続き活動を続けていく。
 
 
 

一般社団法人日本トイレ協会 災害・仮設トイレ研究会

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年3月号


公表3月号

最終更新日:2024-02-29

 

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