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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 建設現場のトイレ環境~ 快適トイレとマンホールトイレ~ > 災害時に目指すべきトイレの質を問う~能登半島地震のトイレ事情を踏まえて、災害用トイレのバージョンアップを考える~

はじめに

阪神・淡路大震災以降、大きな災害時には必ずと言っていいほどトイレ問題が起きています。
トイレ問題とは、給排水設備や処理施設等の被災により水洗トイレが使えなくなることでトイレが不衛生になり、さまざまな健康被害をもたらすことを指します。
この健康被害は災害関連死につながるため、早急な対策が求められます。
 
しかし、これまでの避難所における屋外のトイレ対策の考え方は、建設現場等で使用される仮設トイレを配備することが主となっている場合が少なくありません。
仮設トイレは重要な選択肢ではありますが、もともと建設現場を主な用途として開発されているものが多く、被災者にとって安心できるトイレであるとは限りません。
 
私たちが日頃の生活で使用しているトイレは、プライバシーが確保された清潔な水洗トイレです。
命と尊厳を守るには、災害時であっても普段使用しているトイレ環境を確保することは決して贅沢なことではありません。
 
本稿では、能登半島地震のトイレ事情を踏まえて災害時のトイレの問題を整理し、屋外に設置する仮設トイレやマンホールトイレの質について考えます。
 
 

1. 災害時のトイレが引き起こす3つの問題

災害時に水洗トイレが使用できなくなっても、排泄は待ったなしです。
水洗機能を失っていることに気付かずに、多くの人が排泄してしまうため、あっという間に劣悪な状態になります。
このような状態になると3つの深刻な問題を引き起こします。
 
一つ目は、集団感染のリスクが高まることです。
不衛生なトイレを多くの人が使用することで、手や足を介して病原菌をあちこちに広げてしまうからです。
免疫力が低下している避難所での集団感染は、絶対に避けなければなりません。
 
二つ目は、災害関連死につながることです。
トイレが不便・不衛生になると、トイレに行く回数を減らそうとして、水分摂取を控えてしまいがちです。
そうすることで脱水症状を引き起こし、エコノミークラス症候群や誤嚥性肺炎等に罹患し、最悪の場合、命を落としてしまいます。
 
三つ目は、治安の悪化です。
避難所のトイレを清潔に保つことは、集団生活を行う上でとても重要です。
トイレは排泄の場であると同時に、避難所では唯一ひとりになれる場でもあります。
身体的にも精神的にも重要な役割を担っているのがトイレだと考えます。
そのため、トイレの乱れは、イライラしてしまうなど集団生活の秩序の乱れにつながり、治安が悪化していくことにもなります。
 
以上の3つの問題を回避するためにも、トイレ対策を徹底することが必要です。
 
 

2. 能登半島地震のトイレ事情

当研究所は、日本医師会、石川県医師会、日本財団のサポートを得て、2024 年1 月に発生した能登半島地震における避難所21 か所(輪島市・七尾市)のトイレ調査(詳細は、当研究所のホームページを参照)を実施しました。
この調査で分かった主な課題を以下に説明します。
 

(1) 仮設トイレの設置に要する日数

仮設トイレの設置日がわかっている10か所の避難所のうち最も早く到着したのは1月3日で、4日~7日が50%、8日~14日が30%、15日以上は10%でした。
能登半島という地理的条件も影響していますが、災害時に外部からトイレを届けるには、それなりの時間を要することがわかります(図-1)。

図-1
図-1 仮設トイレの設置に要する日数
(出典:能登半島地震における避難所トイレの被災状況調査(NPO法人日本トイレ研究所))

 

(2) 仮設トイレの様式

今回の調査では、避難所に設置された仮設トイレの85%が和便器でした(図-2)。
これら和便器のうち23%は、応急対応としてアタッチメントにより簡易洋便座を設置していました。
奥能登地域の高齢化率は約50%です。
足腰の弱い高齢者だけでなく、子どもたちにとっても和便器は使いづらいものとなっていました。

図-2
図-2 仮設トイレの和便器率
(出典:能登半島地震における避難所トイレの被災状況調査(NPO法人日本トイレ研究所))

 

(3) トイレの室外照明

避難所16か所のうち屋外に設置された仮設トイレや移動式トイレに関して、トイレ室外照明(トイレ周囲を照らす専用の照明)があったのは31%でした(図-3)。
屋外のトイレ周囲を照らす照明は、防犯および転倒防止の観点から非常に重要です。

図-3
図-3 トイレ室外照明の設置状況
(出典:能登半島地震における避難所トイレの被災状況調査(NPO法人日本トイレ研究所))

 
 

3. 災害時に目指すべきトイレの質を考える

避難所の屋外に設置するトイレは、避難所に避難する人だけでなく、車中避難者や在宅避難者、帰宅困難者、支援者など、さまざまな人が使用することが想定されます。
もし避難所の屋外にトイレがなければ、多くの人がトイレのために建物内へ入ることになるため、混乱が生じることも想定されます。
 
トイレは便利で安心できることが重要です。
不安だったり、不便だったりすると、トイレに行く回数を減らすために水分摂取を控え、体調を崩すことにつながることは、前述のとおりです。
では、便利で安心できるトイレとは何でしょうか。
安心につながる内容は人それぞれ異なりますが、一つ確かなことは平時に使っている水洗トイレの環境にできるだけ近付けることが必要ということです。
 
日本同様に地震などの災害が多いイタリアのトイレ対策は、写真-1のような仮設トイレを国内の各拠点に備えており、発災後すぐに設置する準備を整えています。
中でも重要なのは、給水タンクの手配や仮設配管工事により、平時と同じように水洗トイレを使えるようにすることを目指していることです。
トイレ自体も床置きにして段差を可能な限り解消しています。
 
日本では、仮設トイレの運搬・設置し易さや調達の容易さを重視するがゆえに、被災者にとっての使いやすさや安心感を作りだすことの大切さが抜け落ちているように感じます。
また、災害用に備えているわけではないため、いざ災害が発生した際に思うように調達することができず、被災者ニーズとのミスマッチも起こります。
事前に整備を要するマンホールトイレに関しても、バリアフリーで素早く設置できる利点がある一方で、トイレ室の空間的な質に関しては、堅牢性が低いものや内部から施錠のできないものなどがあり、課題が多いと考えています。
 
繰り返しになりますが、トイレ対策は命と尊厳に関わる重要な課題です。
トイレ対策として目指すべき質の設定を見直す必要があります。

写真-1 イタリアの避難所の仮設トイレ(例) 撮影:水谷嘉浩氏
写真-1 イタリアの避難所の仮設トイレ(例) 撮影:水谷嘉浩氏

 
 

4. まとめ

建設現場等で活用されている仮設トイレは「快適トイレ(国土交通省による標準仕様)」により質的な改善が求められ、国直轄工事に関しては、平成28 年(2016 年)10月より建設現場への快適トイレの導入が進められています。
この取組みは建設現場における職場環境の改善の一環であるとともに、波及効果として災害時におけるトイレ環境の改善が期待されています。
仮設トイレの多くは、建築・建設現場における使用が多いため、建設現場からのニーズが仮設トイレの質的改善に大きく影響します。
また、平時に地域で快適トイレを積極的に採用することは、地域における快適トイレの流通量を増やすことにつながるため、災害が発生した時に快適トイレが避難所等に配備される可能性が高まります。
この快適トイレを災害用トイレの最低基準にしながら、災害時のトイレの質の在り方を見直すことが必要です。
 
災害時は、給水設備、排水設備、処理施設、電気設備、道路など、水洗トイレシステムを維持するためのインフラのどの部分が被災するかわかりません。
それぞれの被災状況に応じて活用できる災害用トイレを選択できる仕組みが求められます。
この時、被災者にとっての快適性を重視すると同時に、維持管理する視点も忘れてはいけません。
頻繁に給水や汲取り等が必要になるのでは、対応できないからです。
トイレはモノではなく、システムとして捉えることが必要です。
本稿が災害時にも安心できるトイレ環境の整備に向けた一助になれば幸いです。

 
 
 

特定非営利活動法人 日本トイレ研究所 代表理事
加藤 篤

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年12月号


積算資料公表価格版2024年12月号

最終更新日:2024-11-20

 

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